
投資信託を選ぶ時は運用成績ではなく資金の流出入をみる
前回、国内で購入できる投資信託の本数について取り上げました(前回の記事はこちら)。その時に申し上げたことを少しおさらいすると、公募型といって証券会社や銀行などの販売金融機関の窓口で誰でも購入できる投資信託の総本数が、9月末現在で5914本でした。
そこから財形株投やミリオン、DC型、SMA型といった、特定の条件のもとでしか購入できないファンドをすべて除くと4476本になり、さらにそこから純資産総額が非常に小さいものを除くと、実際に投資対象としてみなせる投資信託の本数はさらに減少することも触れました。ちなみに純資産総額で100億円未満をすべて取り除くと、わずか954本になります。
したがって個人が投資信託を購入する場合、最低限の条件としてこの954本のなかから、自分で長期的に成長が期待できる市場に投資する投資信託を選ぶことになるのですが、そこで多くの人が犯しやすいミスは、過去の運用成績が高いものを選ぼうとすることです。
投資信託は元本保証や利回りが確定されない金融商品です。購入した投資信託が大きく値上がりするのも、逆に元本を割り込むのも、その投資信託を運用する運用者の能力次第の部分もありますが、それ以上に投資先であるマーケットの動向に大きく左右されます。そして、マーケット(特に株式市場)が将来、値上がりするのか、それとも値下がりするのかについては、誰にも分かりません。そうである以上、過去の運用成績がいくら高かったとしても、それが今後10年、20年も同じである保証はどこにもないのです。
よく投資信託の比較をするにあたって、基準価額の騰落率をランキングすることがありますが、これも過去の運用成績が将来の運用成績を保証するものでない以上、仮にランキングで1位の投資信託を購入したら、将来的にも良いリターンが得られるとは限りません。
つまり、投資信託を選ぶに際して過去の運用成績は、ほとんど意味をなさないのです。
しかし、かといって適当に選べば良いということではありません。リターンを悪化させないために満たす必要のある条件があります。それは資金の流出入が激しくない投資信託を選ぶということです。出来れば、安定的に資金が流入し続けているのが理想です。逆に、ある月は数十億円単位で資金が入ってきて、その翌月は数十億円単位で資金が流出してしまうといったことが続くような投資信託は、いくら優秀な運用者が頑張ったとしても、リターンが上がりにくくなります。その理由を挙げてみましょう。
第一に、いつ多額の解約が生じる恐れがあるか分からない以上、一定のキャッシュを持たなければなりません。
たとえば株式を組み入れて運用している場合、投資信託の保有者から解約注文が入ったら組入株式の一部を売却して解約資金をつくる必要がありますが、なかには売りたくても買い手がつかずに売れない株式もあります。多額の解約注文が生じると、この流動性リスクが生じるため、いつでも解約資金を用意できるように、投資信託はすべての資金を株式などに投資するのではなく、キャッシュを一部残しておくのです。
しかし、キャッシュの比率が高くなると、マーケットが上昇した時、その動きに投資信託の運用成績が付いていけないという問題が生じてきます。
いずれにしても、頻繁に多額の解約注文が入る投資信託の運用担当者は、常にキャッシュの比率を高めた運用をしなければならないため、リターンが劣後してしまう恐れがあります。
第二に、資金流出が続いている投資信託は、将来の値上がりが期待できる株式などがあったとしても、資金が流出しているため新たに買い付ける資金がないという問題に直面します。もちろん、他の銘柄を売却して乗り換えるということは出来ますが、もともと投資信託に組み入れる資産は、将来的に値上がりが期待できるから組み入れられています。それを売るという行為は、運用者としては出来るだけ避けたいし、それを強行すれば運用プランそのものに狂いが生じてしまいます。
第三は、投資信託の運用方針が壊れてしまうリスクがあることです。大半の投資信託は、長期保有を前提にして組入株式を選定します。
しかし、投資信託の保有者が短期回転売買を繰り返したら、運用者は長期保有という運用方針を貫くことが出来ません。当然、これは投資信託のリターンにとってネガティブな要因になります。
そして最後にコストの問題です。もちろん、投資信託は大きな資金で有価証券の売買を行うため、総じて売買コストは安くなります。とはいえ、頻繁に大きな資金の流出入が生じれば、それだけ売買コストがかさみ、投資信託のリターンに悪影響を及ぼす恐れが生じます。
このような要因が重なり、大きな金額の資金流出入が生じて資金が安定しない投資信託は、運用成績が徐々に悪化してしまうのです。したがって、良質なリターンの期待できる投資信託を選ぶ時には、資金の流出入を必ずチェックすることが肝心です。月間の資金流出入状況は、たとえばモーニングスターのサイトなどを見れば分かります。

金融ジャーナリスト
鈴木雅光(すずき・まさみつ)
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。
