
アクティブ運用とパッシブ運用
投資信託を運用スタイルで分けると、「アクティブ運用」と「パッシブ運用」の2種類になります。
どちらを選ぶべきなのかという点については、これまでもアクティブ運用派とパッシブ運用派に分かれて散々、論争が繰り広げられてきたわけですが、今のところ「長期的に見てアクティブ運用はパッシブ運用に勝てない」というのが定説になっています。
その理由は、アクティブ運用のコストが割高という点が挙げられています。実際、国内で設定・運用されている投資信託の運用コストを比較しても、アクティブ運用の信託報酬は年2%前後が主流であるのに対し、パッシブ運用のそれは年0.5%、あるいは年0.1%というものもあるくらいです。
アクティブ運用の信託報酬が年2%、パッシブ運用のそれが年0.5%だとしたら、両者の差は年1.5%になるわけですが、パッシブ運用派の人たちが言うのは、年1.5%のコスト差を埋められるだけの付加価値を、アクティブ運用の銘柄選択力で生み出せるのかということです。
パッシブ運用とは、マーケット全体の値動きと限りなく近い値動きをさせるためのポートフォリオを組んで運用することです。マーケット全体とは、たとえば日経225平均株価や東証株価指数(TOPIX)、ニューヨーク・ダウ、S&P500といった株式市場全体の方向性を示す株価インデックスの値動きを指しています。
これに対してアクティブ運用は、運用担当者の目利きによって株価インデックスの値動きを上回るリターンが期待できる銘柄を選別してポートフォリオを構築します。したがって、ファンド全体のリターンもパッシブ運用のそれを上回ることが期待されています。
ただ、期待はされていても、それが実現するという保証はありません。運用担当者の能力が低ければ、株価インデックスのリターンを下回ることもあります。つまりアクティブ運用は、運用担当者の銘柄選別能力が全てであり、それを外部の人間が見極められるのかという点が問われてくるのです。
そして、それは非常に難しいことなので、アクティブ運用で株価インデックスを下回るリターンしか得られないリスクを取るくらいなら、市場平均のリターンが得られるパッシブ運用の方が合理的という判断が成り立つのです。
ただ、それもマーケット、ひいてはマーケットの動向を左右するその国の経済成長によって、状況が変わると考えられます。
恐らく、多少の下落局面があったとしても、それを乗り越えてさらに高値を更新し続けるような株式市場であれば、アクティブ運用よりもパッシブ運用の方が有利かも知れません。
たとえば米国のニューヨーク・ダウが算出されるようになったのは1896年5月26日からですが、今も同株価インデックスは過去最高値を更新し続けています。
この間には1929年の世界大恐慌、1987年のブラックマンデー、2000年のITバブル崩壊、
2008年のリーマンショック、そして2020年のコロナショックというように、幾度となく大暴落を経験していますが、それでも暴落前の高値を抜いて、上昇を続けています。
こういう国の株式市場で運用するならば、アクティブ運用よりもパッシブ運用の方が効率良く運用できる可能性が高まります。
なぜ米国の株価は過去最高値を更新し続けているのでしょうか。それは経済が持続的に成長しているからです。そして、その持続的な経済成長を支えているのは、移民政策に支えられた人口増加です。
米国の人口は当面、増加傾向をたどり、2020年時点で3億3100万人の人口は、2100年に4億3400万人まで増えると言われています。このペースで人口が増え続ける限り、米国経済は成長し続け、それにともなって株価も長期上昇トレンドをたどると考えられます。
では、日本の株式市場はどうでしょうか。日本はすでに人口が減少局面に入っています。恐らくここからもう一段高い経済成長を実現させようとするならば、尋常ならざる生産性の向上を実現させなければならないでしょう。そのためには、よほど劇的な構造変化を行わない限り難しいと思われます。このような国の株価は長期的上昇トレンドが期待しにくく、一定のレンジ内で上下を繰り返すボックス圏の推移になると思われます。
したがって、日本の株式市場に関しては、株価インデックスに連動するパッシブ運用の投資信託を選んでも、リターンは期待しにくいのが正直なところです。日本全体の成長とは関係のないところで活躍できる日本企業の株式を厳選して投資する、アクティブ運用の方が、高いリターンが期待できそうです。
アクティブ運用とパッシブ運用のどちらを選ぶかは、国の経済成長期待によって変わることなのだと思います。

金融ジャーナリスト
鈴木雅光(すずき・まさみつ)
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。
