
株式に投資している個人の多くは、自分の保有銘柄の株価が値上がりしてくれることを願っています。
それはそうですよね。株価が上がらなければキャピタルゲインを得ることが出来ませんから。
デイトレーダーの場合、株価が上がっても下がっても、方向性に賭けてポジションを取るので、株価が下落したとしても特に問題はなく、株価の値動きが大きいほど収益機会が増えるので嬉しい、ということになるのですが、デイトレードで食べている人はごく一部に過ぎません。現物の株式に投資して、我慢強く値上がりを待つというスタイルで投資している個人が大半を占めています。
したがって株価は値上がりした方が良い、ということになるのですが、考え方次第では、株価が下落した方が嬉しいと思える投資法もあります。
それは配当利回り狙いで長期間、株式を保有するという投資法です。1月19日現在、東証1部上場企業の配当利回りは、最も高いエイベックスが9.66%です。
(エイベックス:配当)
ただし注意しなければならないのは、配当利回りが高ければ良いとは一概に言えないことです。たとえばエイベックスの過去の年間配当額を見ると、2015年3月期から2020年3月期まで1株50円配当だったのが、2021年3月期については121円が予想されています。
このように急に配当が増えた場合、何か特殊要因があると考えるべきでしょう。ちなみにエイベックスの場合は、本社ビル売却による特別利益を加味した結果、2021年3月期の当期利益が150億円の黒字見込みになったため高配当が実現したわけですが、過去の売上、利益の推移を見ると、ここ直近は減収減益が続いており、2021年3月期決算は確かに高い配当が得られたとしても、これが今後も続くとは、なかなか考えくいところです。
ここで紹介する投資法は、「配当利回り狙いで長期保有する」というものなので、長期間、安定的に、ある程度高めの配当利回りが得られる銘柄を選ぶ必要があります。そこで4%程度の配当利回りで銘柄をチェックしていくと、たとえば関西電力など電力各社、メガバンク、地方銀行、大手損保会社、大手商社などが散見されます。
(三菱商事:配当)
ちなみに三菱商事の配当利回りは4.94%ですが、同社の場合、1998年に上場されてから22年間、一度も減配されたことはありません。配当維持は6回ありますが、直近では2020年3月期まで4期連続で増配を続けており、さらに2021年3月期も増配の見通しなので、よほどのことがない限り5期連続増配は確実です。
もちろん経営を取り巻く環境がどこで悪化するかは分かりませんから、確たることは言えませんが、少なくともエイベックスに比べれば三菱商事の方が経営面で安心感がありますし、ここ数年後に倒産するというイメージも、全くといって良いほどなく、今後も長期的に安定した高配当利回りを享受できる可能性が高いと判断されます。
さて、いよいよ本題ですが、このように経営が安定している企業で、かつ配当利回りの高い銘柄は、株価が急落した時こそ配当利回りを改善する大きなチャンスとなります。
三菱商事を例にとると、2020年3月期の配当金は1株につき132円でした。1月19日現在の株価は2671円なので配当利回りは4.94%ですが、たとえばリーマンショックのようなことが起って株価が半値になったら、配当利回りは大きく上昇します。三菱商事のリーマンショック直前の株価は3950円の高値を付けていましたが、リーマンショック後の株価は安値で923円まで下げました。実に4分の1になったのです。仮に現在の配当金を維持したまま株価が半値になれば、配当利回りは10%近くまで上昇します。
もちろん、景気が大きく後退して企業業績が悪化した結果、株価が急落したとすれば、減配になる恐れもあるので、一概に配当利回りが大幅に上昇するとは言い切れませんが、株価は企業のファンダメンタルズはそれほど変わらないのに、市場のセンチメントの変化で大きく下げることもあります。そのような場合こそチャンスです。
あるいは株式ではなく、J-REITに投資するという手もあります。J-REITが投資対象としている不動産は、景気が悪化したからといって賃料が急減することはないので、株式の配当金よりも安定したキャッシュフローが期待できます。
東証に上場されているJ-REITは現在62銘柄ですが、その平均分配金利回りは1月19日現在、4.01%です。当然、J-REITの平均分配金利回りも、J-REITの価格が下落すれば上昇します。リーマンショックの直後は平均分配金利回りが8%を超えたこともありました。今の金利水準で8%の利回りが得られる投資対象は、まさにお宝といっても良いでしょう。
株式投資の魅力はキャピタルゲインにあるというのも分かりますが、相対的に高めの配当金などで安定したキャッシュフローを長期的に享受するのも、株式投資の魅力のひとつです。そして、この投資法に徹すれば、市場のセンチメントの変化で株価が急落した場面は、より高い利回りを得るチャンスになります。まさに株価が下がった方が嬉しい投資法になるのです。

金融ジャーナリスト
鈴木雅光(すずき・まさみつ)
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。
