
ちょっと前の話で恐縮ですが、4月に大手銀行が預金の利率を4年ぶりに引き下げました。
基本的に預金の利率は普通預金よりも定期預金の方が高く、定期預金の中でも満期までの期間が長くなるほど、預入金額が大きくなるほど高い利率が適用されてきました。
しかし、現在の預金利率は普通預金が年0.001%。定期預金は満期までの期間、預入金額の多寡に関係なく、一律で年0.002%が適用されています。定期預金の利率は3月まで年0.01%でしたから、4月に行われた預金利率の引き下げによって5分の1になったということです。
どのくらいバカらしい利息かを計算してみましょう。仮に1000万円を10年間、半年複利で運用した場合の利息は、2000円です。複利は一定期間運用したことで得られた収益を元本に繰り入れて、さらに次の一定期間を運用するため、利息が利息を生んで利回りを高める効果が期待できますが、利率が0.002%まで低下すると、銭単位の利息しか生じないため、計算上切り捨てられてしまいます。結果、10年という長期にわたって半年複利を適用しても、利息が利息を生むという状況にならず、複利効果が全く期待できなくなってしまうのです。
さらに言えば、10年も運用してたったの2000円しか利息が得られませんから、ATMを時間外に使ったりすると、あっという間に利息を上回る利用料が徴収されてしまいます。つまり銀行にお金を預けておくと、お金が増えるのではなく減る恐れすらあるのです。
こういう状況になると、「少しでも高い金利が得られる金融商品はないものか」と考えるようになります。
あるのですよ。全国紙の新聞広告でこんなのを見つけました。
「トルコ・リラ建利付社債 年利率11.40%」
「トルコ・リラ建ゼロクーポン社債 年利回り10.74%」
11.40%!グッと来る人もいるのではないでしょうか。日本の定期預金利率が10年物で年0.002%。これに対して11.40%の年利率ですから5700倍もの違いがあります。「これを買わずしてどうする」という気分にもなるというものです。
上記の2つの社債は、利付社債とゼロクーポン社債の違いはありますが、本稿ではここにあまりこだわりません。要するに両方ともある企業が資金を調達するために発行する債券(社債)であり、通貨はトルコ・リラ建てになります。トルコ・リラ建ての債券を日本で買うためには、手持ちの円をトルコ・リラに替えて買い、償還前に発生する利子、償還時に受け取る元本部分については、トルコ・リラを円に替えて受け取ることになります。
「日本でも名の通った証券会社が販売するのだから、少なくとも詐欺商品ではないだろう」と思いますか?
もちろん詐欺商品ではありません。ただ、この高利回りの裏側には、いくつかのトラップが隠されています。この手の高利回り外国債券が持っているリスクをすべて把握し、それでも買いたいと思えるリターンが期待出来れば投資しても良いのですが、どう考えても割の合わない投資になる恐れの方が高いと言えそうです。
そもそも、なぜ金利が高いのでしょうか。金利は物価との見合いで決まります。つまり金利が高い国はインフレ国なのです。
トルコの消費者物価指数の上昇率は年率で12%です。物価が上昇すれば、相対的にお金の価値は低下します。仮に消費者物価指数が今後も年率12%で上昇した場合、トルコ・リラを現金のままで持っていると、毎年12%ずつお金の価値が目減りしてしまいます。したがって、外国為替市場においてトルコ・リラは、他の低金利国に対して売られ、トルコ・リラ安が進むのです。
これまでの為替レートの推移を見てみましょう。
10年前、2010年7月30日時点のトルコ・リラ/円のレートは、1トルコ・リラ=57.40円でした。
それが2020年7月30日時点で、1トルコ・リラ=15.19円ですから、この10年間で、トルコ・リラは円に対して73.53%も目減りしたことになります。いくら年11%もの利子が付いたとしても、為替でこれだけやられてしまったら、円ベースのリターンは大きく低下してしまいます。
とはいえ為替レートは需給によって決まりますから、誰かが思惑でトルコ・リラを大量に買えば、インフレとは関係なく大きく上昇することもあるでしょう。ただ、それはあくまでも投機の動きです。投機で買われたとしても、どこかで利食い売りが出ますから、それ以上の買い手がいなくなった時点で売りが出始め、最終的には元の水準に戻ってしまいます。
したがって長期的に見ると、トルコのようにインフレ率の高い国の通貨は、米国や日本のようにインフレ率が極めて低い国の通貨に対して、弱くならざるを得ません。表面上の高い利率につられて高利回りの外国債券に投資しても、大概は期待外れに終わるケースが多いのです。

金融ジャーナリスト
鈴木雅光(すずき・まさみつ)
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。
