
2014年から始まった「少額投資非課税制度」、いわゆるNISAの投資可能期間の終わりが近づいたこともあり、2020年度の税制改正大綱にNISA制度の見直しが盛り込まれた。
NISAは毎年一定金額を上限に投資した株式や株式投資信託から発生した配当金や分配金、値上がり益を非課税にする制度だ。現在、2014年1月からスタートした一般NISAに加え、金融庁が認定した株式投資信託やETFによる積立投資に特化したつみたてNISA、19歳までの未成年者を対象にしたジュニアNISAの3種類がある。
それぞれの詳細な制度内容についてはここで言及しない。今回の税制改正大綱で、どのような制度の見直しが検討されるのかについて解説しておこう。
(過去のNISA・iDecoについて執筆した記事はこちら)
まずジュニアNISAは2023年末を持って廃止される。理由は利用者が少なかったからのようだ。
次に一般NISAとつみたてNISAについては、いずれも投資可能期間が5年間延長される。したがって一般NISAは2028年まで、つみたてNISAは2042年まで利用可能になる。そして現行制度の一般NISAは、2024年1月1日から「新NISA」という名称に改められる。
新NISAというだけあって、その制度の内容は現行の一般NISAから大きく変わる。一般NISAは年120万円の非課税枠が設けられ、上場株式の他、上場REIT、ETF、ETN、株式投資信託であれば、何を買い付けても、そこから得られた配当金・分配金、ならびに値上がり益については非課税扱いとなる。
これに対して新NISAは、2階建て構造となる。1階部分については年間20万円を上限にして、つみたてNISAで認められている投資信託での積立投資を行う。2階部分は、現行の一般NISAと同様、上場株式や上場REIT、ETF、株式投資信託を購入できるが、インバース型やレバレッジ型といった短期投資向けのETFや株式投資信託、または通貨選択型ファンドは対象外になる。
そして、ここがポイントになるが、2階部分を利用するためには、1階部分で投資信託の積立投資を行わなければならない。ちなみに2階部分の年間の非課税枠は102万円だ。したがって1階部分と2階部分を合わせた新NISAの年間の非課税枠は、現行の一般NISAの120万円から、122万円に引き上げられる。
これは改正なのか改悪なのか微妙なところだ。「1階部分を利用しない限り2階部分は利用できない」点については一応、例外規定が設けられている。現行の一般NISAを活用している人、ならびに上場株式のみに投資する場合は、1階部分の積立投資は不要になる。
仮に1階部分での積立投資を絶対義務にしたうえで、2階部分で上場株式への投資を認めるという形にしてしまうと、恐らく株式投資しかしていない投資家は、NISAから離れていくだろう。そのため金融庁は、一般NISAで上場株式に投資している個人投資家に配慮したものと思われる。現時点のNISA口座数、並びにその残高を見れば、配慮はやむを得ない。
2019年9月末時点の数字を見ると、口座数は一般NISAが1170万1321口座であるのに対し、つみたてNISAは170万5900口座に過ぎない。買付額にしても、一般NISAは17兆3731億5288万円であるのに対し、つみたてNISAは2335億8892万円だ。
確かに、一般NISAは2014年1月開始で、つみたてNISAは2018年1月開始なので、両者には4年の差があるものの、この差は大きい。もし新NISAへの移行に伴って上場株式に投資している個人投資家がNISAから離れたら、NISAという制度そのものが縮小するだけでなく、保有株式の売り圧力によって、株価が急落する恐れも生じてくる。それは金融庁も避けたいところと察する。
しかし、上場株式のみに投資する場合は1階部分を利用しなくても良いということだが、一般NISAなら年間120万円の非課税枠があったのに、2階部分の非課税枠は年間102万円なので、非課税枠は縮小されてしまう。この点は残念だが、一方で投資可能期間は5年先延ばしになるので、この点は評価できる。
いずれにしても、NISAは個人が利用できる数少ない非課税措置なので、今後、どのような形で内容が変わっていくのか注目しておきたいところだ。

金融ジャーナリスト
鈴木雅光(すずき・まさみつ)
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。
