
国内外の銀行で為替ディーラーとして活躍され、その華麗な取引手腕から「貴公子」と称された酒匂隆雄さん。為替ディーラーの第一人者の顔とは別に、レーシング、海外旅行、ワイン・グルメに温泉旅行と、様々な趣味をお持ちで、人生を楽しく過ごすことに関しても一流人です。
このコンテンツでは、楽しい話題や日々の生活、たまには為替マーケットについて語っていただきます。
先週「えーっ!」と驚く様なニュースを発見した。「警視庁、パトカーに日産フェアレディーZ-NISMOを3台導入」とあり、その下にニュースを書いた記者のコメントだろうが、「絶対に逃げられない・・・」とあった。日産も納入したことを公にし、「交通機動隊や高速隊に配属されるそうです。皆さんも是非安全運転をお願いします!」だと。「皆さんも」の「も」って何だ?
最近のフェアレディーZ-NISMOのスペックは昔のそれと違って、最大出力355馬力、そして最大トルクは397Nm(ニュートンメートル)もあるらしい。かつて筆者が所有していた300台限定車の「NISMO 380RS」はレーシングカーである500馬力の「380 RSC」を街乗り用にディチューン(出力を落とす)して、確か最大出力が350馬力で最大トルクが374Nmであったが、最大出力はそれを凌ぐわけだ。
凄い!この車は速かった!国産車で唯一リミッター(全ての国産車は180キロ以上スピードが出ない様に制御されている。「NISSAN GT-R」はナビを使ってサーキットの中だけはリミッター制限を解除している)が付いておらず、サーキットで走った時は260キロまで出た。(この380 RSも260キロでリミッターが効いた)
ただ、この車、元がレーシングカーであったがために多少扱い難さがあった。先ずはブレーキ。レーシングカーやスポーツカーには必ず付いている「ブレンボ」を装着していたが、このブレーキはローターが冷えていると全然効かない。急いでいる時は左足でブレーキ・ペダルをそっと踏み、右足でアクセル・ペダルをそっと踏んで低速で走りながらローターを温めた。
※トルク・・・車のタイヤを回すための力
エンジンもちと面倒臭い。金属は熱いと膨張し、冷たいと収縮する。レース中は当然エンジン内のピストン・リングが膨張するが、普段は収縮したままだ。エンジンを掛けた時点ではピストン・リングとシリンダーの間に微妙な隙間があって、吹かしても(アクセルを踏んでも)普通のエンジンの様にブォーンと吹き上がらず、カシャカシャと切ない音を立てて全然手応えが無い。マニュアルには「10分間暖機運転をして下さい」と書いてあるが、この車、タコ足の様なマフラーが付いており、はなはだ煩い。
そう言う訳で、速やかに駐車場を出て左足でブレーキを踏みながら2000回転くらい(時速30キロくらいかな?)で、まあおおよそ5分も走ればブレーキー・ローターは温まり、ピストン・リングも程よく膨張する。目安は水温計が上に上がればいい。此処まで来れば凄い。アクセルを空吹かしするとバォーンと一気に5000回転まで吹け上がり、やっとレーシングカーのエンジンに変身するのだ。
これは本当の話であるが、「380 RS」に乗っていて覆面パトカーのお世話になった時、「あ、あの車ですね。逃げようと思えば逃げられましたね」と冗談を言われ、「滅相もありません」と言ったら、実際のスピードよりも30キロくらい下で勘弁してくれた。
ここだけの話であるが、パトカーは200キロ以上では追跡して来ない。逃げる車が他の車に対して事故を起こすことを避けるためである。でも、いくら逃げてもパトカーの車載カメラで後姿を写されていて、後日必ず捕まりますからお止め下さい。
まあ懐かしい思い出であるが、以前この遊楽・三昧でも書いたが「車は止めた」。3年位前にドイツのニュルブルクリンク・サーキットで生まれて初めて高速運転に恐怖を覚えたからである。ニュルブルクリンク・サーキットは「地獄のサーキット」との別名が有り、年間50~60人がここで命を落とす。日本では考えられないが、ドイツでは高速運転での事故は自己責任。(事故責任ではない。あ、詰まらないダジャレで申し訳ありません)
「速い車を持っていて、腕に自信があるのならお好きにどうぞ。ただし、自己責任ですぞ」と言う訳だ。有名なアウトバーンには速度制限は無い。走行車線をたった(?)200キロで走っていると左側の追い越し車線(欧州では車は右側を走るから追い越し車線は左側になる)をバヒョーンとポルシェ、メルセデス、BMWなどが凄いスピードで追い越して行く。
日本と違って追い越し車線をずっと走っている車は無い。そんな事をしていたら猛烈にパッシング・ライトを浴びせられて後ろにぴったりくっ付かれて怖い思いをするのが関の山だ。一番内側のレーンは追い越し車線であることは誰もが自覚しているので、全く問題は無い。
そう言う訳で、今は6速マニュアル・シフトのスポーツカーは手放して、最近買ったスバルの「WRX S4」と孫のアッシー車である同じくスバルのエクシーガに乗っている。通常はオートマチックで運転しているのだが、減速する時や加速をする時シフトダウンしたければパドル・シフトと言うステアリングの左側にあるシフトを引けば、ブリッピングと言ってコンピューターが計算してちゃんと回転数を合わせてシフトダウンしてくれる。
逆にシフトアップしたい時はステアリングの右側にあるシフトを引けばシフトアップしてくれる。もう6速マニュアルなんてしち面倒臭い代物は不要で、レーサーならともかく、普通の人が運転するとパドル・シフト付きのオートマチックの方が早く走れることは間違い無いと断言する。
警視庁がとんでもない車をパトカーに導入した事だし、来月には春の交通安全週間が始まります。日産が言う様に「皆さんも是非安全運転をお願いします」。
「スピード狂のアンタがよく言うよ」と言う声が聞こえますが、最近はいい子にしておりますので・・・

酒匂隆雄 さこう・たかお
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
