
国内外の銀行で為替ディーラーとして活躍され、その華麗な取引手腕から「貴公子」と称された酒匂隆雄さん。為替ディーラーの第一人者の顔とは別に、レーシング、海外旅行、ワイン・グルメに温泉旅行と、様々な趣味をお持ちで、人生を楽しく過ごすことに関しても一流人です。
このコンテンツでは、楽しい話題や日々の生活、たまには為替マーケットについて語っていただきます。
参議院選挙が終わった。
結果は自由民主党と公明党からなる与党が改選過半数を制したが、安倍首相が目論む憲法改正に必要な三分の二を満たす席を確保することは出来なかった。
今回の選挙で驚いたのは投票率の低さである。
その率は50%を割り込み、過去2番目の低さだそうだ。
確か選挙権が18歳に引き下げられて若者が選挙に関心を持てば投票率が上がるのではないかと思ったが、そうではなかった。
投票日当日は西日本が降雨に見舞われて有権者の投票所への足が遠のいたことは否めないがそれにしても二人に一人しか投票しなかった訳だ。
まあ振り返ってみれば安倍首相率いる自民党に多少飽きて来た人々も多かったかも知れないが、"では他に誰が政権を担うのだ?"と考えたら、"これは。"と思える人、或いは政党が見当たらない。(と、思う。)
れいわ新撰組とか言う面白い名を付けた政党が"古い体制を打破して新しい息吹を!"とか言っていたが、あれ、新選組って徳川幕府(バリバリの古い体制。)が雇った新しい息吹を抱いた連中を切り捲った集団ではなかったっけ?
笑ってしまった。
まあ此処では政治・宗教の話をする積りは無いのでここらへんで止めておくが、政治に対しての関心が低い事が低い投票率に繋がったんでしょうな?
実はかく言う筆者も今回の選挙結果を見て余り感慨は無いが一つだけ気に成る事がある。
トランプ米大統領は自分の国の貿易赤字(景気が良いのだから輸入が増えて貿易収支が赤字になるのは当然だろうに。)増加に業を煮やして中国に対して一方的に関税を強化し、似た様な事を同盟国が数あるEUに対しても行おうとしている。
そしてあからさまに名指しで"中国とEUは自分たちの通貨を安くして貿易面で優位に立っている。もう勘弁ならない。我々も同じことをすることは吝かではない。"と声を荒げた。
あれ、かつて同じ様に罵っていた貿易赤字相手国第3位の日本の名が無いではないか?
(因みに、2018年の米国赤字国上位は1位中国、2位メキシコ、3位日本、4位ドイツ、5位イタリアである。)
どうしてか?
それは安倍首相がゴルフ仲間のトランプ大統領に、"秋の消費増税を控えて、参院選挙がちとやばいのよ。懸案の通商・為替問題に関して選挙前は余りつつかないでね。"と頼んでトランプ大統領が安倍さんに忖度したのである。(と、思う。)
但しやり手のトランプはしっかりと、"分かった。しかし選挙後には通商面で良い数字が聞かれることを期待している。"と言った。
安倍首相の戦いが終わり、今度は自分の戦いを来年に控えたトランプ大統領が我が国に通商面のみならず為替面での譲歩を求めてこない保証は無い。(回りくどいが、譲歩を求めて来る可能性が高い、と言うことである。)
忖度と言えばもう一つ有る。
先週、ウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁がより突っ込んだハト派的な発言を行って"7月の0.50%の利下げの可能性高し。"との思惑が広がって、金利低下・株価上昇・ドル円下落を見た。
その後ニューヨーク連銀が"ウィリアムズ総裁の発言は学術的内容であり、次回FOMC.における政策行動に関するものではない。"と発表して再び金利上昇・株価下落・ドル円上昇を見たがウィリアムズ総裁の真意が今一つ理解出来ない。
現状の米国の物価動向や雇用状況から鑑みてFRBによる大幅で早急な利下げの必要性が理解出来ない筆者には、やはりFRBがトランプ大統領に対して目に見えない忖度を意識している様に思えて仕方ない。
安倍首相に対するトランプ大統領の忖度。
トランプ大統領に対するFRBの忖度。
これ等の忖度が本当に有ったか、或いは有るのかは"推し量る。"よりは無いが何れにせよ、トランプ政権による我が国への通商・為替面での圧力増大、そしてFRBによる金融緩和政策開始は間違いなくドル安&円高に作用するであろう。
今日、明日ではないにしろドル・円相場が大きく下げる局面が有るかも知れないことを忘れてはなるまい。

酒匂隆雄 さこう・たかお
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
