
国内外の銀行で為替ディーラーとして活躍され、その華麗な取引手腕から「貴公子」と称された酒匂隆雄さん。為替ディーラーの第一人者の顔とは別に、レーシング、海外旅行、ワイン・グルメに温泉旅行と、様々な趣味をお持ちで、人生を楽しく過ごすことに関しても一流人です。
このコンテンツでは、楽しい話題や日々の生活、たまには為替マーケットについて語っていただきます。
未だ正月も明け切らない1月3日に驚きの104円台まで急落した後徐々に値を戻し、一時112円台だったドル・円相場は米中貿易戦争の勃発、米朝関係の悪化、米国との国境を巡るメキシコ問題、そして一触即発状態となった米国とイランとの確執などでリスク・オフ(投資家がリスクを嫌気して保有する資産の売却や新たな投資を控え、結果としてスイス・フランと共に避難通貨とされる円が買われる。)となって徐々に円高となり、先週106円台の安値を付けた後現在108円前後で推移している。
先週末大阪で開催されたG20を機に開催された米中首脳会談で懸念された米国による第4弾の追加関税が回避され、又突然の米朝首脳会談の開催で地政学的リスク=(特定地域が抱える政治的、軍事的、社会的な緊張の高まりが、地理的な位置関係によって、その地域や関連地域の経済、世界経済全体の先行きを不透明にして金融市場を揺るがせたりするリスク。)が減少して円が売られたこともドル・円相場上昇の理由となった。
7月に入って年の半分が過ぎ、これから年末に掛けてドル・円相場がどう動くのであろうか?
先ずは米中問題であるが今や米中間の軋轢は貿易戦争に留まらず世界のGDP第一位と第二位の大国間の覇権争いとなっている。
米国の中国に対する注文は対米国の貿易黒字を減らすことのみならず、人権問題、知的財産権の問題を解決し、南シナ海での中国の軍事的プレゼンスを減らす様に求める。
貿易問題では米国の課税に対して中国が報復関税を掛け、またそれに対してトランプ大統領が第二弾、第三弾の追加関税を掛けて来た訳であるが、今回の首脳会談の手打ちで事が終わったと思うのは大間違いである。
中国は第四弾の追加関税を免れ、トランプ大統領が中国最大手の通信業者であるファーウェイに対する禁輸措置を緩和し、国家安全保障上の重大な問題がない機器について米企業に同社への製品売却の再開を認めると言う、中国にとっては申し分のない成果であったが果たして米国は何を得たのか?
中国からの表立った見返りは発表されていないが、遅かれ早かれ再びこの両国がいがみ合いを始める確率は高かろう。
G20後の突然の米朝首脳会談の開催など、どうもトランプ大統領が来年の大統領選挙を控えてのお得意のパフォーマンスを繰り広げている様な気がしてならない。
何れ再びリスク・オフの展開となる可能性は高かろう。
依然としてニュースのヘッドラインに翻弄される事が続きそうである。
さて米国の中央銀行であるFRBは先日のFOMCにおいて極めてハト派的(金融緩和に積極的)な声明を出して年内の利下げの可能性が大であることを仄めかしたが、市場はそれに対して大げさに反応し政策金利であるFed Fund Rate.の先物市場では7月の利下げを殆ど100%織り込み、年内の利下げを3回と見ていた。
それに対して先週FRBが利下げに前のめりになっている市場をけん制する動きを見せた。
先日のFOMCで利下げを主張するなどハト派の急先鋒となっているブラード・セントルイス連銀総裁が"7月の0.5%の利下げ期待は行き過ぎ。"と述べたり、パウエル米FRB議長が講演で、"FRBは「短期的な政治圧力から隔絶」している。"と表明してトランプ大統領の利下げ要求をけん制し、また"米経済が堅調に推移すると見込まれる一方、通商問題などを巡る不確実性が利下げの根拠になり得るかどうかを見極めようとしている。"と述べた。
もし利下げ機運が収まれば米金利は上昇し、ドル・円相場には好材料であるが株価は下げる事であろう。
もう殆ど100%のFRBによる7月の利下げを織り込んでいる市場はFRBが今回の米中首脳会談の結果を見て"通商問題などを巡る不確実性。"の減少を理由に利下げを断念する様な事が有れば株価は大きく下げるであろう。
金利上昇によってドル・円相場は上がるか、それとも株価下落によってドル・円相場は下がるか?
難しい局面となりそうである。
個人的な意見としては米中間の軋轢が俄かに解決するとも思えず、常にリスク・オフ要因として投資家による積極的なドル買いを逡巡させるであろう。
またFRBが基本的な緩和姿勢を保持して年内の利下げ期待を裏切らないのであれば米国長期金利は低いまま推移して株価は堅調さを保持し、ドル・円相場は下げて年内にも102~103円を目指す展開となろうか?
これはあくまでも個人的な意見であることをお忘れなき様お願い致します。
この個人的な見解を覆さざるを得ない状況(ドル高要因が台頭してドル・円相場が上昇する。)が起きる様であればまたお知らせします。

酒匂隆雄 さこう・たかお
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
