
国内外の銀行で為替ディーラーとして活躍され、その華麗な取引手腕から「貴公子」と称された酒匂隆雄さん。為替ディーラーの第一人者の顔とは別に、レーシング、海外旅行、ワイン・グルメに温泉旅行と、様々な趣味をお持ちで、人生を楽しく過ごすことに関しても一流人です。
このコンテンツでは、楽しい話題や日々の生活、たまには為替マーケットについて語っていただきます。
3週連続で相場の話をして恐縮であるが、今日もドル・円相場が面白い動きをしたのでご披露しよう。
昨日から今日に掛けて日銀が政策決定会合を開催した。
10日前までは余り注目されていなかったのだが、7月20日(金)のロンドン時間にメディアが『日銀が7月30日~31日に開催される政策決定会合で長期金利の誘導目標を変える。』という報道が出て市場は混乱し、週明けの東京市場では長期金利(ベンチマークは10物債券利回り)が前日の0.030%から0.080%迄急上昇し(それでも未だ殆どゼロに近いのだが...)、日銀が目標としている0.100%を超えない様に買いオペレーション(公開市場操作)を行って金利の上昇を防ごうとした。
どうしてこれが重要な問題かと言うと、日銀は5年以上にも渡って超金融緩和政策を行って金利を下げ、ドル円相場を円安にして株価を押し上げる所謂アベノミクスを助けて来たのだが、此処に来て此の低金利政策の副作用、例えば、
・銀行が儲からない(銀行が儲からないと経済は低迷するんだそうです...)
・株価が意図的に底値をかさ上げされているのではないか(株価は売りが多いと下がる筈なのに日銀が株を買って自由な動きを妨げている?政治家は株価の下落を嫌いますよね...)
・債券市場の流動性が枯渇する(日銀がせっせと買い占めるので債券が市場に出回らない...)
などの問題が指摘され始め、『FRBが利上げを行い、ECBが来年利上げを始める中、日銀も何時かは利上げに踏み切らざるを得ないだろうな。』と言う観測が常に囁かれていた。
ただ、日銀は『物価が2%を超える事が金融緩和終了の条件である。』と宣言してしまい、この低インフレの状況で『にっちもさっちもいかない状態』に陥っていた。
市場でも出口戦略の模索(何時金融緩和政策から脱却するか)は数年先だろうと思っていたところにこの報道が出たのである。
市場の反応はまちまちで、海外筋は『日銀はそろそろ何か行動するだろう。』との期待を持ち、国内筋は『現在の物価状況では日銀は何も出来ない。』と期待薄であった。
そしてその間ドル円相場は先週の『遊楽三昧』でも触れた様に円高傾向となっていて、日銀の行動有りをある程度期待していた感がある。
結局、日銀は強力な金融緩和を粘り強く続けていくと述べながら、金利が上下にある程度変動しうることを許容し、債券買入れに弾力性を持たせるなど、政策に若干の幅を持たせる微調整を行ったが、市場は混乱と言うかどの様に反応して良いか分からなかった模様である。
上のチャートはドル円相場の11時からの5分足ローソクチャートであるが、11時頃から相場は下げだし、一時110.71を付けたがその10分後には111.42まで50銭も上昇し、その後は行ったり来たりで方向感の無い動きに終始した。
『たかが50銭の動き』かも知れないが最近のドル円相場の動きは鈍くて数十分の動きとしては大きい物であった。
問題は110.71近辺で『日銀の政策は基本的に変わっていないな。』と感じて、えいやっとドルを買えるか?
逆に110.40近辺で逆に『ついに日銀は政策を弾力的に動かそうとしたか?』と感じて、えいやっとドルを売れるかである。
難しいですなあ。
注目の日銀の政策決定会合は終わったが、次の焦点は8月にずれ込んだ日米通商交渉の行方である。
個人的には円安方向への動きは限られた物だと思っているのだが、果たして相場はどうなるか?
『8月はドル安&円高になる。』と言うアノマリー(理論では説明のつかない相場の変動。言い換えれば、よく分からないがそう言う傾向が強いと言うことか?)を付け加えておく。
頑張りましょう!!

酒匂隆雄 さこう・たかお
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
