
国内外の銀行で為替ディーラーとして活躍され、その華麗な取引手腕から「貴公子」と称された酒匂隆雄さん。為替ディーラーの第一人者の顔とは別に、レーシング、海外旅行、ワイン・グルメに温泉旅行と、様々な趣味をお持ちで、人生を楽しく過ごすことに関しても一流人です。
このコンテンツでは、楽しい話題や日々の生活、たまには為替マーケットについて語っていただきます。
先週、『異常気象』と題して今回の西日本豪雨の惨状について触れ、あの時点で亡くなられたた方が120名を超え、行方不明の方が80名以上居ると書いたが、何と今日現在で211名がお亡くなりになり、未だに20名の方々の行方が分からないらしく、未曽有の大惨事となった。
改めてお悔やみとお見舞いを申し上げます。
もう1週間以上も警察、消防、そして自衛隊の方々やボランティアの方々が懸命の捜査や後片付けに精を出されているが、実に怪しからんのはこう言う時でも必ず自衛隊の皆さんの働きに対して文句を言う奴らが居る事である。
ある女性政治家は、此処にそいつの発言内容を書くのを憚られるほどの暴言を吐いて筆者を驚かせた。
どうしてあの様な無神経な発言が出来るのだろうか?
自衛隊の皆さんの活躍に涙を流しながら感謝の意を表している被災者の皆さんの気持ちが分からないのだろうか?
「お前が一人濁流の中に取り残されても自衛隊の救出を拒む程の覚悟を持ってそんな暴言を吐いてるのか?」と言ってやりたい。
自衛隊の皆さん、こんな馬鹿な奴の発言なんて無視して頑張って下さい!
さて西日本では豪雨に見舞われ、東日本でも猛暑に襲われている間に為替市場も荒れた。
荒れたと言うよりは市場の多くが(勿論筆者も)米中貿易戦争の行方を懸念してリスク・オフ(投資家がリスクを回避するために、より安全な資産に資金を移動する傾向にある市場の状況を表す金融用語。その反対はリスク・オン。=デジタル大辞泉)の動きとなり、株価は下がり避難通貨として円が買われて円高になるだろうと考えていたのだが全く逆の動きとなり株価は上がり、ドル円相場は節目と言われた5月21日に付けた111.39をあっさりと上切り、先週金曜日は戻し高値の112.79を付け、市場では年初の1月8日に付けた113.38はおろか、昨年3回大きなレジスタンス(上値抵抗線)と成った114円台のミドルまで戻すとの意見もある。
この意外な(?)動きの背景としては、(あくまでも後付けになってしまうが)
‐米中戦争の煽りを喰らって新興国の経済が低迷し資金流出が起きて米ドルに回帰する。
‐関税引き上げで米国で安い中国製品の輸入が細り、その結果米国の国内物価には上昇圧力が掛かって、米連邦準備理事会(FRB)は利上げペースを更に加速させ、ドル高を促す要因となる。
‐世界的な貿易戦争が更にエスカレートして米国が自動車輸入に対しても課税する事態に成れば日本の貿易収支が悪化し、円安となる。
などがあるが、それよりも最近市場を動かす大きな力となっているテクニカル分析を重視するAI(人工知能)やアルゴリズム(ある特定の目的をより効率的に達成するために定式化された処理手順。例えば、111.40を上切ったら買い方向で行く。逆に109.00を下切ったら売り方向で行く、などのプログラミングをしておく。)が人間の勝手な(?)思惑や考えを無視してドルを買ったのではなかろうか?
下の日足チャートを見ても分かる様に5月21日に高値111.39、5月29日に安値108.11を付けた後6月は5月の値幅をもっと狭くした110.94~108.72の狭いレンジ内で取引されていたが、上で述べた理由で111.39を上切った為に一気に半年ぶりの高値の112.79まで買い戻されたのであろう。
布石はあった。
下のチャートは今年に入ってからのドル・円相場の日足ローソク足チャートであるが、青いラインが21日移動平均線でオレンジ色のラインが200日移動平均線を表しているが、1月24日に21日移動平均線(短期移動平均線)が200日移動平均線(長期移動平均線)を下切り、デッド・クロスと呼ばれる『売りサイン』が出現した後3月23日に今年安値と成る104.62まで下落した。
その後ドル・円相場は上昇反転して5月21日に戻し高値の111.39を付けた後大体109.00~111.00のレンジ内に留まり、今度は21日移動平均線(短期移動平均線)が200日移動平均線(長期移動平均線)を上切るとゴールデン・クロスと呼ばれる『買いサイン』が出現すると言われていて、それが上のチャートで見られる様に7月2日に出現したのである。
その後約1週間は米中貿易戦争懸念の高まりによりドル・円相場には大きな動意は見られなかったが先週111.39を超えた途端にドルの買い意欲が台頭して112.79の高値まで上伸した。
他にもM&A.や本邦機関投資家による外国株購入の為の旺盛な円売り&ドル買いが相場を押し上げたと言われるが、109.00~111.00のレンジを上切り、ゴールデン・クロスの買いサインを示現したドル・円相場は何処まで上がるのであろうか?
下のチャートは昨年からのドル・円相場の日足チャートを示しているが、テクニカル分析を得意とする参加者は昨年3回大きなレジスタンス・ライン(上値抵抗線)であった114円台のミドルを意識していると聞く。
果たしてそうすんなりとテクニカル分析通りに動くのであろうか?
筆者は依然として米中貿易戦争の行方とその結果に対して慎重であり、今月末から始まる日米通商交渉も円高要因となり得ると懸念する。
トランプ大統領は先週開かれたNATO(北大西洋条約機構)の首脳会議で国防費の負担などで揉め、最も強力な同盟国の一つであるドイツを『ロシアの捕虜』とこき下ろした後、ロシアのプーチン大統領との会談で両国関係の改善を演出した。
中国とは貿易戦争を始め、欧州の同盟国とは同じく通商や安全保障政策で亀裂を広げる中、米露両国の不自然な関係改善には不気味ささえ感じる。
ドル・円相場は明らかに上昇トレンドにある。
とは言え、この『遊楽三昧』でも以前指摘した『時限爆弾』(リスク・オフとなってドル安&円高になる危険性)は依然として存在する。
暫くは短期的なトレードに終始し、再び下げトレンドに転じた時は捲土重来で流れに乗りたいものだ。

酒匂隆雄 さこう・たかお
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
