
国内外の銀行で為替ディーラーとして活躍され、その華麗な取引手腕から「貴公子」と称された酒匂隆雄さん。為替ディーラーの第一人者の顔とは別に、レーシング、海外旅行、ワイン・グルメに温泉旅行と、様々な趣味をお持ちで、人生を楽しく過ごすことに関しても一流人です。
このコンテンツでは、楽しい話題や日々の生活、たまには為替マーケットについて語っていただきます。
横浜で大手不動産グループが販売した大型マンションで建物を支える杭の一部が固い地盤(支持層)まで達していなくて建物が傾き、大問題となっているが、杭の先端部分と地盤を固定するセメントの量にもデータの転用や改ざんがあったという。
どうしてこう言うごまかしをやろうとするのだろう?「ばれなきゃいいんだ」とでも思っているのだろうか?ちょっとした地震で倒壊でもしたら大変なことになるではないか!これは犯罪ですな。
あるドイツの自動車メーカー、これをV社としよう。V社は排ガス規制の数値をクリアするために大掛かりなごまかしを行っていた事が大ニュースになったが、これも犯罪ものである。
やり方は巧妙であった。アメリカ、特にカリフォルニア州の排ガス規制は一番厳しくて、我が国の自動車メーカーもその対策に知恵を絞り続けていた。
その結果、世界第二の自動車メーカー(V社がズルをして世界第一となったが)であるトヨタは世界に冠たるハイブリッド技術を確立したのだが、V社を始めとする欧州自動車メーカーは出遅れた。

そこで小排気量のディーゼル・エンジンにターボ・チャージャーを付けて省エネルギーをうたい文句にしようとしたが、ディーゼル・エンジンの排気ガスはガソリン・エンジンよりも多量の有害物質を排出する。バスやトラックの排気ガスを見ていると「ブォーッ」と黒い煙の様な物が出るが、あれである。
V社は何をやったか?
エンジンを制御するコンピューターを巧妙に細工し、排ガス検査の時だけ基準値をクリアする様にし、その他通常の道路上での走行時には有害物質を垂れ流す様にしたのである。どうしてか? その方が燃費がいいのと、結局は小型ディーゼル・エンジンでは基準値をクリアするのが大変だったからである。
通常、排ガス検査は検査場で行われ、ローターの上に車を載せてエンジンの回転数を上げていって排ガスを測る。エンジンの回転数だけ上げればいいのでハンドル操作は不要だ。エンジン制御のソフトに、「ハンドル操作が行われていない状態の時にエンジンの回転数が上がる時だけ」(検査の時だけ)排ガスの中の有害物質が出ない様な仕組みを組み込み、「ハンドル操作が行われている状態の時にエンジンの回転数が上がる時」(通常の道路上での運転をしている時)には有害物質を平気で垂れ流す様にしたのである。
どうやって見付けたか?
ある大学の研究チームが検査場ではなく、走行中のV社の車に検査機器(日本製)を取り付けて検査をして不正を暴いたのである。この二つの事件の解決はこれからである。前者は建て替えるのか、修繕するのかは知らないが巨額の損害賠償請求が行われるであろう。
後者もリコールや訴訟請求が起きるのは必至で、またこれらの問題によるReputation risk(企業に対する否定的な評価や評判が広まることによって、企業の信用やブランド価値が低下し、損失を被る危険度。評判リスク・風評リスク)は計り知れないものがある。だってもう誰もあの車を買いたいと思わないでしょ?
組織ぐるみでやったのかどうかは知らないが、まあ、ただただ呆れるばかりの事件が続いたものだ。
いつかはばれる様な馬鹿な事をするのは止めましょう!

酒匂隆雄 さこう・たかお
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
