
円、全面安
円安が進んでいる。
ドル・円相場は109円~111円のレンジを凡そ半年間続けた後、10月に入ってレンジの上サイドの111円を切った後は急激に上昇のピッチを速めて4年ぶりのドル高水準である114.69を示現した。
(2021年1月からのドル・円相場の週・ローソク足チャート)
111円台から114円ミドル迄の上げのピッチが急過ぎ、流石に115円台を前にして利食いのドル売りが出て一時113.26までの調整を見せたが、今週に入っては再び114円台を回復している。
この4週間の間に米国10年債利回りは凡そ0.1% 上昇したが、このドル高は米国長期金利高を反映してのものではない。
10月に入ってからの主要通貨の動きを見ると、月末要因で29日に突然100ポイント下げたユーロ・ドル以外ではドル安&その他通貨高が進んでおり、まるで円の独歩安(対ドルで-2.6%、対ユーロで-2.3%、対ポンドで-3.7%、対豪ドルで-6.3%)であるかの様な動きを見せているのが分かる。
10/1 | 10/29 | |
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ドル・円 | 111.07 | 113.96 (+2.6%) |
ユーロ・ドル | 1.1593 | 1.1562 (-0.3%) |
ユーロ・円 | 128.77 | 131.77 (+2.3%) |
ポンド・ドル | 1.3544 | 1.3692 (+1.1%) |
ポンド・円 | 150.43 | 156.05 (+3.7%) |
豪ドル・ドル | 0.7262 | 0.7521 (+3.6%) |
豪ドル・円 | 80.66 | 85.71 (+6.3%) |
米国長期金利上昇にも拘わらずドルが対ポンドで下落した背景にはイングランド銀行によるポンドの年内利上げ期待があり、豪ドルは原油上昇による資源国通貨としての優位性が好感された。
そしてこの二つの要因こそ、円安が急速に進んだ理由である。
先ず利上げ期待であるが、これは円とその他通貨との金利差拡大を意味し、当然金利が上がると期待される通貨が買われ、低金利の円は売られる傾向となる。
先週日本銀行が政策決定会合を開催したが、展望レポートでは2021年度の実質GDP.成長率見通しが前回7月時点の見通しの3.8%から3.4%へと下方修正され、物価の低迷が続く中追加の緩和も引き締めも考えられない"にっちもさっちも行かない。"状態が続いて、日本銀行の金融政策スタンスは世界各国中央銀行の緩和脱却気運からは程遠い。
金利面からの円の魅力は甚だ小さい。
次に原油高であるが、10月中にWTI先物は1バレル=75.88ドルから83.57ドルへと凡そ10%上昇したが、年初の47.62ドルからは何と凡そ75%も上昇した。
我が国は原油の殆どを輸入に頼っている。
消費エネルギーの根幹である原油価格が75%も上がったのでは堪らない。
我が国の貿易収支はついに8月、9月の両月共に赤字に転落した。
これからの寒い季節を控えて世界的な暖房用石油の需要が増えるにつれて原油価格の更なる上昇が懸念される。
貿易収支赤字増加のもう一つの理由に輸出の減少が有る。
コロナの影響による半導体不足と自動車部品のハーネス不足により我が国の自動車メーカーの殆どが減産を余儀なくされ、当然自動車の輸出が出来ない。
原油価格上昇による外貨支払い輸入代金の増加と自動車輸出減少による外貨受け取り代金の減少は我が国の貿易収支悪化となり、その赤字額が増えるのは当然である。
我が国の貿易赤字が増えれば円は売られる。
ではこのままどんどん円安が進むかと言うと、そうとも言えない。
先ずは上述した様に半年も続いた109円~111円のレンジ相場を切った後の111円から114円までの上昇ピッチが速過ぎて、少々スピード違反気味である。
それとこのドルの上昇に乗じて積み上がった投機筋のドルの買い持ちポジション(ドルが上がるとの思惑でドルを買っている。)が膨れ上がっており、何れはこのポジションは減少か解消されなければならない。
言い換えれば時間の問題でドルの売り材料となる。
下は投機筋の代表格であるシカゴ・IMM.の円のポジションで、10月26日現在でネットで約11万枚の円の売り持ち(ドルで約120億ドルの買い持ち)となっており、これは過去のポジションから鑑みても相当大きなポジションと言える。
シカゴ・IMM.は順張りが得意で円が安くなれば(ドルが高くなれば)トレンド・フォローで円を売る。(ドルを買う。)
逆に円が高くなれば(ドルが安くなれば)トレンド・フォローで円を買う。(ドルを売る。)
上のチャートを見ると2020年3月くらいからの円高局面(赤い線が下向きになる。)から円の買い持ち(ドルの売り持ち)に転じ(青いバーが下に伸びる。)、2021年3月くらいからの円安局面(赤い線が上向きになる。)から円の売り持ち(ドルの買い持ち)に転じて(青いバーが上に伸びる。)現在に至っている。
これから赤い線が更に上向きになるか(ドルが上がるか)、それとも大分上に伸びきった青いバーが縮まるか(ドルの買い持ちが減少する。=ドル売りが生じる。)、大変興味のあるところである。
個人的な意見としては中長期的なファンダメンタルズ(経済的基礎要因)に則った円安の地合いは変わらないが、短期的には113円くらいまでの下(ドル安&円高)への調整が有っても不思議ではないと思っている。
ドルが下がったところを買うと言う、Buy on dips.の戦略で臨みたい。

酒匂隆雄 さこう・たかお
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
トレードトレードブログ:
酒匂隆雄が語る「畢生の遊楽三昧」
