
109円~111円のレンジが切れた
凡そ3ヶ月続いた、ドル・円相場の109円~111円のレンジがついに切れた。
先月は一挙に噴出した中国不動産大手の恒大グループの債務不履行問題でリスク・オフとなり株が売られて円は買われ、一時109.11の安値を付けレンジの下サイドである109円を割り込むかと思われたが、21日~22日に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)で流れが変わった。
FOMCの声明で、"予想通りに進展が続いた場合、テーパリング(資産買い入れペースの減速)が近く正当化される可能性が有ると判断する。"とし、パウエルFRB議長はFOMC後の記者会見でより具体的に"早ければ次回のFOMCでテーパリングの開始の発表の可能性が有り、テーパリングは2022年の半ばまでに完了する可能性が有る。"と述べて、市場は今回のFOMCを以前よりもタカ派的(金融緩和に消極的)と捉えた。
その結果債券は売られ、長期金利は上昇して10年債利回りは1.56%と、月初の1.2%台から大きく上昇した。
米金利動向に敏感なドル・円相場はレジスタンス(上値抵抗線)であった111円の壁をあっさりと破り、一時高値112.07を示現した。
急激なドルの上昇には月末のリバランス(米株下落による通貨調整)による巨額のドル買いが起きたと思われ、ドルはその他の主要通貨に対しても上昇した。
流石に112円台ではドル売りが台頭して再び111円を割り込む場面も見られたが、ドルの下サイドは固いように見受けられる。
FRBによるテーパリング開始期待、原油・天然ガス価格上昇による輸入額の増大、我が国自動車メーカーの大幅な生産縮小による輸出額の減少など、ドルの更なる上昇を期待させる材料が多いが、同時に依然として燻る中国恒大問題(先程、"中国恒大と傘下の不動産管理部門、香港市場で取引停止。"との報道が流れ、先週金曜日のニューヨーク株式市場での3指数の上昇を受けて一時275円高となっていた日経平均は約275円安の28,497円で月曜日午前の取引を終えた。)やアメリカの債務上限問題などのリスク・オフによるドル安問題も横たわる。
当面はどうやら時限爆弾(何時ドルが下に破裂するか分からない。)を抱えてドルの上昇を期待すると言う感じであろうか?
自民党総裁選が終わり、岸田文雄氏が第100代内閣総理大臣に選ばれたがはっきり言って新鮮味は無い。
菅前首相は"円高嫌い。"で有名であったが岸田新首相は為替相場に対してのバイアスはお持ちでない様に見受けられる。
岸田さんに対して海外のメディアは"Mr. Status Quo."=(ミスター・現状維持)と呼び、大きな変革を期待しているとは思っていない。
まあ為替を含め、金融市場に対する影響は無いと見て良かろう。
実は先週1週間程アメリカを訪れたが、バイデン大統領の不人気ぶりには驚いた。
アフガン撤退で米軍の犠牲者を出し、またコロナ対策でも後手後手になったとの批判が有り、支持率も40%近くに低迷して"支持する。"の60%を大きく下回る。
米議会でバイデン政権が政策の要としてきたインフラ投資法案や予算審議が難航し、民主党内でのバイデン大統領の影響力が低下している。
前回の選挙で敗れた共和党・トランプ前大統領が全米各地で人気を博しており、来年の中間選挙での現職バイデン大統領の苦戦が囁かれ始めた。
政治的不安定は金融市場に大きく影響を与える。
アメリカの政治動向にも留意したい。
ドル・円相場は、上で述べたドル高要因とドル安要因を睨みながら、当面は110円~112円のレンジを見ておきたい。

酒匂隆雄 さこう・たかお
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
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酒匂隆雄が語る「畢生の遊楽三昧」
