
米長期金利続落
先月の為替ランド・スケープで、"長期金利下落の怪。"のタイトルで米国長期金利下落の不思議さを書いたが、その傾向が止まらない。
10年債利回りは一時1.1%台へと下落した後月末に向かって少し戻したが、7月末時点で1.225%と先月末から更に0.243%下げた。
(上図は米国債10年利回りのチャート)※画像クリックで拡大
先月号でFOMC後から長期の債券利回りが低下した理由として、
-長期金利上昇を見越して投機筋が債券の先物市場で売り持ちにしており、Buy on fact.(事実で買う。)で買い戻した。(債券価格上昇=利回り低下。)
-債券市場はFRB同様に将来のインフレに対する懸念を抱いていなく、長期金利上昇に懐疑的である。
-FRBが依然として月間800億ドルの債券を購入しており、市場は需給の観点から債券価格の下落(金利上昇)を見込んでいない。
-世界の機関投資家(中央銀行を含む。)は1.5%前後の米国10年物債券利回りを当面は魅力的と感じており、ネットで買い越しとなっている。(債券買い=債券価格上昇=利回り低下。)
などを挙げたが、それに世界経済の成長を阻害しかねない新型コロナ・ウイルスのデルタ変異株の感染拡大を巡る懸念を背景にリスク・オフ(投資家が既存のリスク資産の圧縮を図り、新たなリスクを取る事を躊躇する。)の動きが進んでおり、安全資産とされる債券に買いが入り易い(債券高=金利安。)状況と言えるのかも知れない。
米長期金利続落を受けての金融市場の動きを見ると、ドルは対円と対ポンドでは値を下げ、対ユーロと対豪ドルでは値を上げると言うまちまちの動きを見せた。
ニューヨーク株式市場の3指数は長期金利低下や米企業業績好調を背景に連日最高値を更新する好調さを見せたが、日経平均は新型コロナの新感染者数の増加を嫌気して軟調に推移した。
6/30 | 7/31 | ||
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ドル円 | 111.10 | 109.66 (ドル安&円高) |
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ユーロドル | 1.1859 | 1.1872 (ドル高&ユーロ安) |
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ポンドドル | 1.3832 | 1.3907 (ドル安&ポンド高) |
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豪ドルドル | 0.7498 | 0.7346 (ドル高&豪ドル安) |
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2年債利回り | 0.252% | 0.187% (金利低下) |
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10年債利回り | 1.468% | 1.225% (金利低下) |
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30年債利回り | 2.088% | 1.894% (金利低下) |
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NYダウ | 34,502.51 | 34,935.47 (株高) |
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ナスダック | 14,503.95 | 14,672.68 (株高) |
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S&P | 4,297.50 | 4,395.26 (株高) |
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日経平均 | 28,791.53 | 27,283.59 (株安) |
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※ニューヨーク市場の終値。日経平均は東京市場終値 |
ドルのその他主要通貨に対するまちまちの動きを見ても分かる様に、現在の為替市場ではファンダメンタルズ(経済的基礎要因)分析よりも、株価や長期金利の利回りとテクニカル分析を睨みながらの柔軟な取引が大事な様に見受けられる。
ドル・円に関して言えば長期金利が上昇すればドル買い、下落すればドル売りの戦略が功を奏しそうである。
現在は110.20に位置する下落基調の21日移動平均線と、109.70に位置する上昇テンポが鈍ってきた様な感じがする90日移動平均線をコアにして109円~111円のレンジと思われるが、上述した様に鍵となるのは米国長期金利の動向であろう。
(2021年1月からのドル・円日足ローソク足チャート。ブルーのラインが21日、緑が90日、オレンジ色が200日移動平均線。)※画像クリックで拡大
先週開催されたFOMCでは政策金利は据え置きとなったが、テーパリング(金融緩和策の一つであるFRBによる債券購入の減額措置。)については初めて深く掘り下げた議論が行われたものの、具体的な時期については触れられず、またパウエルFRB議長が"利上げについてはずっと先であることは明白だ。"と述べ、6月のFOMCで早期利上げ期待に前のめりになった市場の雰囲気は多少冷めたものとなった。
テーパリング開始のタイミングの憶測で長期金利が神経質な動きを見せる可能性が有る。
また8月に入って夏休みを取るディーラーが増えて市場の流動性が低下し、流動性が低下すれば当然ボラティリティー(相場の変動率)は増加する。
思わぬ相場の乱高下に注意したい。

酒匂隆雄 さこう・たかお
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
トレードトレードブログ:
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