
ドル安&円安
5月はドル高&円安を促す様な経済指標の発表が相次いだにも拘わらず、ドルと円が共に弱くなる展開となった。
先ずは第一四半期の日米のGDP(国内総生産)値を比べてみよう。
日本-5.1%、アメリカ+6.4%でその差は11.5%。
景況感を表すGDP.差が11.5%も有るのであれば、咄嗟に日本売り&アメリカ買いの発想が浮かんでも不思議ではない。
そして次は日米の消費者物価指数の比較。
日本-0.4%、アメリカ+4.2%でその差は4.6%。
日本は相変らず物価低迷に喘ぎ、何方かと言うとデフレ懸念が広がる中、アメリカはFRB.の誘導目標を上回る物価上昇でインフレ懸念が再燃した。
此れを受けてFRBが金融緩和政策からの脱却を図るテーパリング(債券購入規模の縮小)のタイミングを速めるのではないかと憶測が広がったが、日銀はにっちもさっちも行かない(世界各国の中央銀行が緩和政策からの脱却を模索する中、日銀は何も出来ない。)状態に陥り、日米金利差は開くと考えるのが妥当と思われる。
日米金利差拡大はドル高&円安を導く。
更に日本売りを促す様なニュースが流れた。
菅内閣の支持率の低下である。
最新の日経新聞のアンケート調査によると、菅内閣の支持率が40%まで下落して不支持の50%を大きく下回り、発足以来の最低値となった。
特にコロナ対策について"支持せず。"が64%で"支持する。"の31%の倍以上に達しており、多くの国民が現在の政府のコロナ対策について不満を抱いていることが分かる。
この調査は日経リサーチが無作為に18歳以上の男女をピックアップして行った調査で、これを我々高齢者に行ったら"支持せず。"の比率はもっと大きくなっていたであろうと確信する。
それ程政府の対応はお粗末である。
筆者の所にも横浜市から5月中旬に"ワクチン接種の心得。"の様な物が送られてきて先ずは予約の手筈が書いてあった。
インターネットと電話での予約を受け付けているのだが、これが要領を得ない。
上手く予約が出来ても接種は6月の下旬となり、接種会場が又分かり難い。
何処に行って良いのかよく分からないのだ。
菅首相は"7月までには高齢者へのワクチン接種を終える。"と意気込むが、恐らく無理であろう。
ところで、筆者はオリンピック開催が可能か否か、或いは決行すべきか中止すべきかの議論に加わる積りは無い。
はっきり言って全く興味が無いのだ。
只もし開催の延期か中止が決まったら、市場参加者は経済的にと言うよりはイメージ的にかなり日本にとってネガティブと捉えるであろう。
矢張り、日本売り=円売りの発想が浮かぶ。
これらを察してか5月、市場では一時110.19までドル高&円安が進んだ。
下は4月末と5月末の為替相場と10年債利回りを比べたものであるが、ドル・円の円安の度合いが小さいのは、他の主要通貨に対してドル安が進んだ為、安いドルと安い円の掛け算の結果対ドルでの円安幅が小さいものとなった。
一言で言えば、ドル安と円安が進んだのである。
4/30 | 5/31 | ||
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ドル円 | 109.33 | 109.87 | (0.5%ドル高&円安) |
ユーロドル | 1.2020 | 1.2190 | (1.4%ドル安&ユーロ高) |
ポンドドル | 1.3814 | 1.4186 | (2.7%ドル安&ポンド高) |
ユーロ・円 | 131.43 | 133.93 | (1.9%円安&ユーロ高) |
ポンド・円 | 151.04 | 155.87 | (3.2%円安&ポンド高) |
10年債利回り | 1.625% | 1.580% | (0.045%金利低下) |
※ニューヨーク市場終値 |
上で挙げた理由から鑑みて、個人的にはドル高&円安が進むであろうなと思うのだが、どうもドルの頭が重くてどんどんドル高&円安が進む雰囲気でもない。
その理由としては、
-FRBの、市場が期待するテーパリングに対するスタンスがいまいちよく分からず、現在の超緩和姿勢からの脱却のタイミングを計り切れず、長期金利(米国10年債利回り)も1.7%を大きく上回って上昇する雰囲気ではない。
先週金曜日に発表になった個人消費支出も市場予想を上回り、FRBのインフレ目標を超える強さを示したが10年債利回りは1.580%まで下落しドルも引けに掛けて売られた。
-我が国の貿易収支の黒字は前年同月比16%増だった3月に続き、4月は38%増と拡大している中、米国の貿易収支赤字は米商務省が5月4日に発表した3月の米貿易統計によると赤字額が前月比4.1%増え、2カ月連続で過去最大を更新した。
再び日米間の貿易不均衡が注目されつつある。
-ユーロやポンドなどのその他主要通貨が堅調に推移し、ドル高をけん制している。
-我が国個人投資家やシカゴ・IMMの投機筋はドルの買い持ち(円の売り持ち)を保持しており、久々の110円越えを見て利食いのドル売り&円買いの動きに出ても不思議ではない。
などが挙げられる。
※上記画像をクリックすると拡大します
先月ご紹介したペンタゴン・チャートもドル・円に関しては現在は苦労している感が有る。
4月29日に108.80で買いシグナルが出た後高値109.78を付けたが直ぐに反落して5月17日には108.95で売りサインが出て安値108.58まで下落した。
そして5月27日には再び109.35で買いサインが出ている。
極めて近いレベルで買い、売りサインが交錯しているのだ。
ドル・円相場は108.50と109.50のレンジ取引の感じがするが、ペンタゴン・チャートはこの様な持ち合い相場が苦手である。
筆者が重宝して使用している外為どっとコム社の7つのテクニカル分析を表す指標もまちまちである。
移動平均線は上を示しているが、売られ過ぎや買われ過ぎを表すMACD、ストキャスティクス、RSI.は異なった方向を示している。
ファンダメンタルズ(経済的基礎要因)分析ではドル高&円安になっても不思議ではないが、需給分析ではドルが買われ過ぎの状態で、テクニカル分析はまちまちである。
こういう時はどうするか?
トレンドがはっきりする迄待てば宜しい。
前回"長い物には巻かれろ。"と言ったが、相場が長くも短くもない(トレンドがはっきりしない。)のなら、待つのが肝要。
FXは面白くて四六時中やっていたい気がするが、"下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。"とは行かない。
"下手な鉄砲、数撃ちゃ弾が無くなる。"である。
ドル・円に関しては今暫く108.50~110.50 くらいのレンジかと心得るが、109円を切ったら下サイドに要注意、逆に110.30辺りを切ったら上サイドに要注意かなと思っている。
何だか不甲斐ない予測であるが、要は"現在は両サイドに注意しよう。"と言う事である。
Good luck !

酒匂隆雄 さこう・たかお
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
トレードトレードブログ:
酒匂隆雄が語る「畢生の遊楽三昧」
