
連日真夏日を記録した猛暑の8月が終わった。
確か昨年も"こんな暑い夏は初めてだ!"と喚いたが、間違いなく今年も"こんな暑い夏は初めてだ。"と思うくらい暑かった。
特に今年は新型コロナ・ウィルスのせいで外出時にマスクを着けなくてはならず、炎天下でマスク着用で歩くと頭がくらくらして大変で、ついマスクを外すことも多かった。
その未だ頭がくらくらする程の暑い中、衝撃のニュースが走った。
安倍首相の突然の辞任表明である。
辞任の理由を、持病の潰瘍性大腸炎が再発し、"体力が万全でない中、政治判断を誤ることがあってはならない。"と記者経験で釈明した。
8月17日と24日に都内の病院を訪れて検診を受けており、"体調が悪いのかな?"とは思っていたが、首相在任7年8ヶ月の最長不倒記録を作った直後だけに驚いたが、長い間の御勤めご苦労様でしたと申し上げたい。
安倍首相は2012年に旧民主党から政権を取り戻した後、3本の矢(金融緩和、財政出動、成長戦略)を柱としたアベノミクスを強力に推し進めて金利低下、株高そして円安を演出した。
アベノミクス効果により10年物日本国債は0.7%からマイナス圏に下落し、日経平均株価は8000円前後から25,000円近くまで戻し、ドル・円相場も80円前後から125円近くまで戻して安倍首相が得意満面であったことは記憶に新しい。
(21012年からの日経平均の月足チャート)
(2012年7月からのドル・円相場月足ローソク足チャート)
只、株価、ドル・円相場共にピークを付けた後、日経平均株価はニューヨーク市場の騰勢を横目に20,000円~23,000円のレンジをうろうろし、ドル・円相場も同じく105円~110円のレンジで推移してアベノミクスの賞味期限は切れたかに感じていたが、今回の辞任表明でいよいよアベノミクスの終焉かと感じた市場参加者は筆者を含めて多かったであろう。
市場もすかさず反応して辞任表明のニュースが流れると直ぐに日経平均株価は600円近く下落し、ドル・円相場も106.80近辺からじりじりと値を下げ、欧州・ニューヨーク勢が参加すると安値105.21まで下げることとなった。
株が売られ、円が買われてアベノミクスによる株高と円安の巻き戻しが起きたのである。
次期総裁候補として石破前幹事長、岸田政調会長、河野防衛相、茂木外相、菅官房長官の名前が挙がり、現在閣僚ではなく主流派ではないものの世論調査で"次期総裁としてもっとも相応しい人。"として高い支持率を持つ石破前幹事長が後継者となれば大きな政策転換が起きる可能性を市場は感じ取ったのであろう。
ところが先週末、沈黙を保っていた安倍首相の懐刀であった菅官房長官が総裁候補に立つと報じられて状況は一変した。
菅さんが後継者となればアベノミクスは兎も角、安倍首相が主導してきた政策を基本的には踏襲するものと思われ大きな政策転換は無い。
週明けの東京市場では株が買い戻されて日経平均株価は23,000円台を回復し、円が売られてドル・円相場も106円台を回復したがこのまま株高と円安が進むか?
そんなことは有るまい。
上述した様にそもそもここ数年、アベノミクス効果は極めて薄らいでおり安倍首相が辞任し、新たな首相が誕生しても金融市場、特に為替市場に大きな影響を与えるとも思えない。
現時点では誰が次期首相になるかは未だ不明であるが、かねてからの米中関係悪化懸念、米大統領選挙の行方、それに米国での追加経済対策に関しての与党共和党と野党民主党の協議難航などのリスク・オフ要因に一つ新たな要因が加わったと認識するだけで充分であろう。
ドル・円の戻り売りの戦略は不変で良かろうか?

酒匂隆雄 さこう・たかお
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
トレードトレードブログ:
酒匂隆雄が語る「畢生の遊楽三昧」
