
暫くは円高、その後は円安に注意
先月号のランドスケープで新たなリスク要因として指摘した新型コロナ・ウィルス(COVID-19と名付けられた。)が世界中の金融市場を揺さぶっている。
我が国でも日毎に新型コロナ・ウィルスの感染者が増え、安倍首相の要請により公立小中高の休校が決まった。
震源地の中国から地理的に遠くて影響が少ないと言われていたアメリカでも感染者が増え、ついにニューヨーク金融市場を震撼することとなった。
業績が堅調なGAFA.(Google, Amazon, Facebook, Apple.)株の上昇につられて一時3万ドルに近付いていたダウ平均株価は2月12日の29,551ドルを高値に急激に値を下げ、2月28日には25,409ドルの安値で引け、2週間強の間に実に14%の下落を記録した。
当然リスク・オフ(投資家が既存の債権を処分したり、新たなリスクをとる事を躊躇う。)の動きとなって安全資産である債券が買われ(金利は下がる。)2月12日に1.635%であった10年物米国債券利回りは28日には史上最低の1.163%を記録した。
アメリカの政策金利であるFed Fund Rate.は現在1.75%で短期金利(Fed Fund Rate.)が長期金利(10年物米国債券利回り)よりも高いと言う所謂逆イールド現象が起きている。
金融界では逆イールド現象は景気減速の予兆と言われる。
ニューヨーク株式市場の下げを受けて当然東京株式市場でも株価は下げ、2月12日に23,861円であった日経平均株価は28日には21,142円へと約11%の下げを演じた。
先月旺盛な本邦機関投資家のドル買いにより一時112.22まで上昇していたドル・円相場は株価と米債利回り低下を受けてあっという間に値を崩し、3月2日には安値107.40を示現した。
何時もの"ドル・円相場の上げはジワジワ、下げはドスン。"を再び見た気がした。
この急激な株価の下落に対して2月28日金曜日、パウエルFRB.議長は新型コロナ・ウイルスに関する緊急声明で"経済を支えるために適切な手段を使う。"と利下げを示唆する発言をし、3月2日月曜日には黒田日銀総裁が"潤沢な資金を供給すると発言し、またラガウドECB.総裁も"適切かつ的を絞った措置を講じる用意がある。"と表明して日米欧の中央銀行が金融緩和に積極的であることを示した。
此れを受けて3月2日のニューヨーク株式市場で株価は急激に値を戻してダウ平均株価は8日ぶりに上昇に転じて過去最大の上げ幅を記録して26,703ドルまで回復した。
ドル・円相場も高値108.57迄戻したが頭は重い。
依然として連日コロナ・ウィルスのニュースが報じられているが、一向に終息する気配は無い。
ウィルス蔓延と感染者数増加が顕著に衰えたとか、劇的な効果を表す新薬の開発が出来たとかのニュースが聞かれれば兎も角この騒ぎは早々には収まるまい。
今回の金融ショックと呼んでもいい動きがコロナ・ウィルスによるものである以上各国中央銀行の果敢な政策遂行だけではリスク・オフによる更なる株価下落と円高の動きは止められないではなかろうか?
今回の中央銀行の措置の様な事をきっかけにして値を戻すことは有ろうが、その時は戻り売りの戦略が有効であろう。
今回の突然の円高の動きを見て"金利差縮小の観点から更なる円高が進んで100円も有り得る。"との意見も出だしたが、筆者はそうは思わない。
短期的にはリスク・オフの動きが進めば更なる円高が進む可能性は高かろうが、中長期的には円安になる可能性だって大である。
2019年第4四半期、我が国のGDP.は年率で-6.3%と言う"びっくりする様な"マイナス成長に終わった。
2020年第1四半期もコロナ・ウィルスの影響でマイナス成長に陥る可能性は確実で、2四半期連続でマイナス成長となる。
2四半期連続のマイナス成長となれば、国際的には"テクニカル・リセッション(技術的な景気後退)"と定義され、戦後最長と言われる第2次安倍政権発足時からの景気拡大は終わりを迎える。
またオリンピック開催を危ぶむ声が広がりつつあるが、もしそうなった場合の経済的損失は巨額なものに成るであろう。
この様な状況で大幅な円高が進むとは考え難い。
コロナ・ウィルス問題が終焉するまでは円高に注意し、収まる気配が見えれば今度は円安進行に注意したい。

酒匂隆雄 さこう・たかお
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
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