

経済成長著しいフィリピン。そこで若い日本人が金融ビジネスで成功を収めつつあります。S DIVISIONホールディングスがその会社です。今、フィリピンの経済情勢はどうなっているのか、成功する裏側にあるものは何なのか。為替ディーラーとして国際経済の最前線を見つめてきた酒匂隆雄氏が、S DIVISIONホールディングスの代表取締役会長である須見一氏に話を聞きます。
<第二弾の記事はこちら>
私、フィリピンという国にはほとんどご縁がありませんでした。たまたま友人のお誘いでカジノに行ったことはあるのですが、空港からホテルに直行してカジノなどホテルライフを楽しみ、ホテルからそのまま空港に行って帰国というプランなので、フィリピンという国をほとんど見ていませんでした。
ところが私の投資仲間から、マニラで若い日本人が金融ベンチャーを立ち上げて頑張っているという話をいただき、ちょっと興味を持ちました。それで6月にお邪魔して、須見さんがやっておられるお仕事の現場を見させていただきました。
恐らくトレトレの読者の皆様は須見さんがどういう方なのか、まったく知らないと思いますので、まずは簡単に自己紹介していただけませんか。
今39歳です。社会人としてのキャリアはトラックの運転手からのスタートでしたが、毎日運転手をしているうちに、「このままだとマズイな」と思うようになりました。単純に自分の労働力をお金に換えているだけですからね。

何とか自分の時給単価を上げなければならないと考え、雇用される側ではなく、スペシャリストになろうと考えました。時代はちょうどインターネットが広がり始めた時期でもあったので、その分野について猛勉強をして、独立したのが30歳の時です。
今は金融やBPO(※注)で事業展開をはかっていらっしゃいますが、独立した当初はITだったのですね。
そうです。20代の頃は好きなことを仕事にしたいなどと思っていましたが、実際にビジネスの最前線に立ってみると、それはいかにも生ぬるい。自分に出来ることを仕事にしていく必要があると考えるようになり、アプリを開発するようになりました。ちょうどiPhoneやアンドロイドが登場した時期です。C言語やJAVAでアプリを開発し、同時にリストマーケティングを充実させるため、フリー戦略でリストを採っていきました。あとはFXや株式のトレードですね。
ただ、ビジネスやトレードを通じてお金を稼ぐことはできましたが、今度は時間がどんどん無くなっていきました。家族と良い時間を過ごすことも人間にとっては大事です。さてどうしたものかと考えていた時、ある人からフィリピンが不動産ラッシュでとんでもないことになっているという話を聞きました。じゃあ、自分の目で見て来ようと思い、フィリピンに行ったのです。
BPO - Business Process Outsourcing(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)
自社業務の一部を外部の専門業者に委託すること。【代表的なもの:コールセンター】
確かに、あの熱気は実際に行ってみないとわかりませんね。何しろ経済成長率は年6.5%。先進国の経済成長率は1%前後で、日本に至っては0.5%成長です。それと比較したら、年6.5%の経済成長率は驚異的です。
とにかくビジネスの効率が非常に良いことを実感しました。不動産ブームでコンドミニアムが次々に建てられていたのですが、彼らは三交代のシフトを敷いて24時間体制で建設します。だから、日本の3分の1の工期で出来てしまうのです。
その様子を自分の目で確認した時、これは早くフィリピンでビジネスを始めないとチャンスが無くなると思いました。それでともかく不動産のプレセールから始めたのです。
マカティ地区は今、高層ビルがどんどん建ち、フィリピン経済の中心地として発展していますが、その周辺は未開発ですからチャンスはあります。

国民の平均年齢も、日本が46歳であるのに対して、フィリピンは24歳ですから、ポテンシャルが物凄くある。新興国は一般的に通貨が不安定ですが、フィリピンペソはとても安定しています。これは経常収支が黒字であることが大いに関係しているのですが、フィリピンは海外労働の送金が非常に大きな国です。しかも勤勉な国民性を持ち、英語も変な癖のないフラットイングリッシュを話します。
そのうえ労働賃金や物価が安く、ホスピタリティも良い。ゴルフ場も素晴らしい。まあ、ゴルフは冗談にしても、とにかく海外から資本がどんどん流入しているのは事実です。この手の国は、そう簡単に為替が暴落したりしません。
そうですね。だから、日本とフィリピンの架け橋になりたいと思っているのです。日本は莫大な資本を持っていますが、残念ながら国内には魅力のある投資先がありません。これに対してフィリピンは、お金はないけれども、ポテンシャルの高いビジネスがたくさんあります。だから、日本の資金をフィリピンの発展のために使い、そこで得た高いリターンを日本に還元させるという、まさに資本の架け橋になれれば良いと考えています。
須見さんの会社であるS DIVISION社は、不動産ビジネスの他に金融メーカーとして融資や出資、個人融資などさまざまな金融ビジネスを展開しています。特にコンシューマ・ファイナンスの分野では、地元の方から非常に喜ばれるビジネスモデルを展開していらっしゃる。通常、フィリピンのコンシューマ・ファイナンスといえば、金利が年利換算で30%、40%が普通です。
それでも多くの人が、短期的な資金の融通を付けるため、これだけ高い金利でも借りるわけですが、須見さんの会社は年14%という低利融資を行っている。それでも十分な利益を出していますし、何よりも貸倒がほとんどない。これは素晴らしいことですね。
私たちは端的に申し上げますと、ネガティブな意味を含んだ「金貸し」に見られがちです。金貸しは出来るだけ自分のところで貸し倒れのリスクを負いたくないので、融資先の雲行きが怪しくなるとすぐに融資を引き揚げようとします。だから、どうしても「非情な」とか、「冷たい」というイメージで見られてしまうのですが、私たちは融資先と一緒に商売をするという感覚を、何よりも大事にしています。
たとえば融資先にはお肉屋さん、魚屋さん、お米屋さんといった商売をされている方が大勢いらっしゃいます。そういう人たちは、たとえば自分のところで10の値段で売る物を8で仕入れて、その差額を自分たちの利益にするわけですが、彼らは私たちにとってのビジネスパートナーですから、私たちが彼らの代わりに商品を仕入れて、それを8の値段で彼らに卸しています。そうすることによって単にお金を貸すだけでなく、彼らのビジネスそのものにもコミットしています。その積み重ねで信頼を得ているのです。
また貸し倒れが少ない理由ですが、個人経営のお店に融資するにあたっては、彼らに直接融資をするのではなく、彼らを束ねている地元の有力者である村長さんに融資しています。地元の村長さんは自分の面目を保つ必要もありますから、きちんと返済してくださいます。これが貸し倒れの低さにつながっています。
今回、S DIVISIONホールディングスとして社債を発行しますが、非常に魅力的な条件の投資先だと思います。何しろ償還期間1年物の社債の利率が年12%、2年物で14%です。それにしても、1年物、2年物というように、社債とはいえ随分と償還期間が短いように思えますが、これは何か理由があるのですか。
そもそもフィリピンにおける融資は1年、あるいは2年というように期間が短いものが中心なので、社債の償還期間もそれに近づけた方が、融資のリスクは格段に低くなります。そのため社債の償還期間も短くしましたが、日本人は1年定期預金のような、比較的満期までの期間が短い金融商品を好む傾向があるので、償還期間が短い私たちの社債への親和性が高いのではないかと期待しています。
これを私募債で発行し、日本国内で販売するわけですね。
そうです。あと、BPOのビジネスオーナー権も販売しています。実はBPOについて今のフィリピンは、かつて1位だったムンバイを追い抜いて、文字通り世界一になりました。BPOとは、もう少し日本の方々に身近なところで申し上げると、コールセンター業務が該当します。このコールセンターの席をビジネスオーナーの権利として小口に分けて販売しています。こちらはコールセンターの収益をベースにして利回りが出るようにしているのですが、1口300万円で年20%のリターンが上がっています。
成長著しい国で、これからビジネスを拡大していかれるわけですが、須見さんの夢は何ですか。
まず、私たちのグループにあるフィリピン・ルーラル銀行は、日本でいうところの地方銀行みたいなものです。地方銀行ですから、フィリピンの特定地域が商圏になるのですが、これを世界で決済できるような銀行にしたいと思います。
それとともにAIを用いたレンディングを突き詰めていきたいと考えています。与信判断にAIを入れることによって貸出先を今以上に増やすことが出来ます。もちろん、その裏返しとしてデフォルトのリスクは高まりますが、融資先が増えるので、結果的に利益の向上につながりますし、今の私たちには見えていない融資のやり方が、AIレンディングの導入によって見えてくるはずです。そこに興味があります。
とはいえ、やはりデフォルトは極力避けたいところなので、融資先をGPSで把握し、返済が滞った場合は、その人が乗っている自動車のエンジンが、遠隔操作でかからなくするといった技術の応用なども進めていければと思います。
これからのご発展、期待しております。ありがとうございました。
こちらこそ。
|
|
