蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」

蟹瀬誠一(かにせ・せいいち)

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。
現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。


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米国が引き摺るダーティな影

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長身でハリウッド俳優のようにハンサム。身のこなしも品良く、裕福な知人の支援を受けてビジネスで大成功した後に政界に転身。サンフランシスコで100年ぶりの最年少市長となったといえば、米民主党のプリンスのカリフォルニア州知事ギャビン・ニューサム知事(53歳)だ。

彼は同性婚をいち早く容認したリベラル派の民主党政治家で、新型コロナパンデミック以前は貧困層救済や死刑執行一時停止に汗を流し、コロナ発生後は全米で最も早く外出禁止令を出すなど感染拡大に対応。その手腕は高く評価されていた。18年の知事選では得票率6割で圧勝し、将来は民主党の大統領候補にも名前が挙がっていたほどだ。

ところがそんな彼に対して今月14日、リコール(解職)投票が行なわれ全米の注目を集めた。いったいなぜなのか。じつはその裏にはあの忌まわしい人物の影があったのだ。

きっかけは、昨年11月、外出禁止令を発令した知事自らが家族といっしょにワインで有名なナパにある高級レストランで政治コンサルタントの誕生日を祝って十数人で会食したことが明らかになったことだった。

コロナ禍にマスクもつけず、ソーシャルディスタンスも無視して白トリュフやキャビアなど1人1200ドル(13万円)の最高級ディナーコースに舌鼓を打っていたというのだから、顰蹙(ひんしゅく)ものだった。

なにしろその事実をスッパ抜いたのは保守系のフォックスニュース。ご丁寧に会食現場を目撃したという匿名の女性が撮影した写真と彼女の肉声インタビューまで公開した。

来年の中間選挙で巻き返しを狙う共和党がこのチャンスを見逃すわけがない。コロナウイルス感染拡大、ホームレス急増、山火事対策の不備、夫人のスキャンダルなどありとあらゆる「理由」を並べ立ててニューサム知事のリコールを求める署名集めを始めたのだ。

アメリカで最も進歩的とされるカリフォルニア州では1911年に直接民主制が導入された。目的は特定の利益団体による不公正な利益誘導を阻止するためだった。ところが住民投票に必要な署名数(有権者の12%)が少ないことから同州ではリコール手続きが驚くほど容易で、特定の利害関係者にしばしば乱用される羽目になった。

そのため、これまで同州の知事がリコール投票にかけられた回数はなんと50回以上。ただし実際に成立したのは2003年のわずか1回だけ。民主党のデービス知事がリコールされ、共和党候補だった俳優のアーノルド・シュワルツネッガーが知事に選ばれたときだけだ。

どうみても制度に問題がある。英国の経済紙『ザ・エコノミスト』は今回の出来事を「カリフォルニアの直接民主主義の狂気」と書いた。

民主党の牙城である同州知事選で勝ち目のない共和党は、今回その制度上の「欠陥」を突いたのだ。あらゆる手段を使ってリコール実施に必要な150万人を遙か超える171万人以上の署名をかき集めた。これで民主党政権の足をひっぱろうというわけだ。

ニューサムの知事続投には過半数の信任票が必要だった。しかし、共和党にとって重要なポイントはニューサム氏が過半数を取れなければ、同時に実施される後任候補に対する投票で最も得票数の多い候補が知事に選ばれるということだ。これなら共和党にも勝つチャンスがあるということだ。

今回の立候補者はなんと46人。当然のことながらほぼ全員が共和党だった。その中で後継者として最有力視されたのはラリー・エルダー、69歳。熱狂的なトランプ前大統領支持者で、過激な発言で人気の保守系ラジオ番組の司会者だった。

銃規制に反対、ワクチン接種義務化反対、気候変動は「嘘っぱち」だと否定、女性蔑視、LGPTQは「神をも恐れぬ罪悪」、「トランプは神からの贈物」だと公言して憚らない人物。まるでトランプの分身のようなデマゴーグ(大衆扇動者)だ。

危機感を強めた民主党陣営はテレビの選挙広告に8月だけで3600万ドル(約39億円)を投入したといわれている。それだけではない。バイデン大統領やカリフォルニア州出身のハリス副大統領までが急遽応援演説に駆けつけた。トランプ支持の共和党候補が勝利すれば、来年の中間選挙だけでなく2024年の大統領選挙にまで悪影響がおよぶからだ。

投票の結果は反対大多数でリコールは不成立。ニューサム陣営からは安堵のため息が漏れた。しかしこれで一件落着とはいかない。なぜなら長引くコロナ禍と全米で最も厳しい行動制限で、ニューサム知事に対する住民の不満は高まっているからだ。会食スキャンダルで彼のリーダーシップにも疑問符がついた。

じつは、その背景にはあの悪党の姿が見え隠れする。ドナルド・トランプ前大統領だ。今回もトランプ流ダークサイドスキルが際だった。リコール投票で負けても有権者に不信感を植え付けて民主党支持者を揺さぶる汚い戦略だ。

トランプは保守派のウェブサイトNewsmaxに登場し、今回の投票も「不正操作(rigged)」が行なわれる!」と叫んだ。もちろんこれまで通り証拠はいっさい示しめさずに。

「不正が行われてないと信じる人間なんて本当にいるのか?・・・とんでもない数の郵便投票でまた大掛かりな選挙詐欺が行われるぞ。2020年の大統領選の時とまったく同じだ。あれほど露骨ではないけどな」

アメリカを取材して回ると分かるが、そんなトランプ前大統領の戯言を本気で信じる熱狂的支持者や宗教的保守層が未だに驚くほど多くいるのだ。地元紙『サンフランシスコ・エグザミナー』(8月20日付)の社説の見出しがいみじくもそれを物語っている。

"DON'T LET TRUMP WIN IN CALIFORNIA"

ニューサム知事に勝利をではなく、「ドナルド・トランプをカリフォルニアで勝たせるな」なのだ。トランプがホワイトハウスを去って8ヶ月以上経った今も、トランピズムの黒い影がつきまとっているのである。これは紛れもない民主主義への脅威だ。

最新のCNNの世論調査によると、56%のアメリカ国民は民主主義が攻撃されていると感じている。恐らくこの傾向は来年の中間選挙、そして2024年の大統領選挙に向けてより強くなっていくだろう。

アメリカは『狂気と幻想のファンタジーランド(Fantasyland: How America Went Haywire)』と著名な米作家カート・アンダーセンが書いたが、まさにその通りなのだ。

           

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今アフガニスタンで起きている事

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斬首など恐怖支配で世界を震撼させたアフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンが再び猛スピードで勢力を拡大させている。現政権は事実上崩壊に追い込まれ、今後の展開によっては市場のリスク要因になる。

なぜなら、傍若無人なトランプ大統領を政権の座から引きずり下ろし、新型コロナウイルス対策でも目覚ましい成果を上げて、自由と民主主義の旗手を標榜するバイデン米大統領にとって初の大きな政治的つまずきになる可能性が高いからだ。

「アフガニスタンには世界中のどの軍にもひけをとらない30万人の軍がいる。これに対して反政府武装勢力タリバンは7万5000人であり、国を制圧されることはない」

そうバイデン大統領は7月9日の記者会見で答えていたから面目丸つぶれ。数字に誤りはなかったが、情勢を読み違えた発言だったからだ

政府軍(警察を含む)は数だけでは圧倒的に優位だったが、政府も軍も腐敗が蔓延していて命がけで戦う気力など無かったのである。ロシア通信の報道によれば、ガニ大統領に至っては大量の現金を持ち出してさっさと国外に逃亡してしまったという。一方、狂信的タリバンは士気がすこぶる高く、各地の軍閥や武装勢力、宗教指導者などを味方につけていった。

それが米軍完全撤退を目前にして、わずか10日ほどでタリバンが電撃的に全土を制圧できた理由だ。

思い返せば、2001年9月にイスラム過激派テロ集団アルカイダが米同時多発テロを起こしてからまだ間もない頃にアフガニスタンで人道支援に取り組んできた故中村哲医師をインタビューした際に次のように語っていた。

「アフガニスタンには私たちが想像するような国家は存在していません」 

アフガニスタンは国家というよりは部族の集合体だというのが彼の見方だった。まさに卓見だと思う。 

「山の民の国」という意味の国名をもつアフガニスタンは、中東と中央アジアに挟まれた標高1800メートルの山岳地帯に位置する要衝だ。東と南にパキスタン、西にイラン、北にトルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、北東に中国と国境を接する他民族国家で、人口は約3800万人。 

1919年に英保護領から王国として独立、73年のクーデターで共和国となった。その後はソ連軍の侵攻や米軍率いる有志連合によるテロ報復攻撃を経て新政権が成立したが、ふたたび状況が悪化してきているのだ。

古くはアレクサンダー大王や大英帝国、そしてソ連が軍事侵攻しても攻略できず「帝国の墓場」とも呼ばれるアフガニスタンで、世界最強の米国も墓穴を掘ったことになった。

なにしろ9・11同時多発テロ事件直後の軍事攻撃から20年の歳月をかけ、2500人近くの兵士の命を犠牲にした挙げ句の負け戦である。撤退戦略を継承した現職の大統領が批判の矢面に立たされることは間違いない。 

それにしてもなぜアフガニスタン情勢にこんなにも世界の注目が集まるのだろうか。それには人道的関心以上に重要ないくつかの理由がある。

まず、同国はアジアと中東の結節点に位置していて地政学的な重要度が高い。現代地政学の開祖マッキンダーがこの地域を制する者はユーラシアを制するとさえ言ったほどだ。 

また、治安が安定すれば、周辺国や国際石油資本にとっては石油や天然ガスを最短距離で安価で輸送できるルートでもある。 

さらには、アフガニスタン東部のジャララバードは、アジアの「黄金の三角地帯」と並んで世界最大の麻薬の密造地帯だ。ヘロインの原料であるケシの生産量は世界シェアの8割(1999年)を占めていた。ふたたび急激に台頭してきたタリバンの主な資金源でもある。 

政府の後ろ盾だった米軍不在となって、タリバンと周辺イスラム諸国、ロシア、中国の間で熾烈な綱引きがすでに始まっている。 

一度はアフガン戦争から不名誉な撤退を余儀なくされたロシアは、是が非でも中央アジアでの勢力拡大を実現したい。一方、中国はイスラム過激派の新疆ウイグル自治区への流入を警戒しつつ、巨大経済圏構想「一帯一路」の重要中継地点としてアフガニスタンを支配下に置きたいと思っている。 

戦争の最大の犠牲者はいつも国民だ。すでに何万人もが避難を強いられ、多くが殺害されたり負傷したりしているという。タリバンによる子供に対する「残虐行為は日増しに酷くなっている」という国連児童基金(ユニセフ)の報告も痛ましい。 

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欧州を牽引した女帝

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いよいよ女帝が表舞台を去ることになった。

と言っても虚飾の物語満載の小池百合子東京都知事のことではない。

歴史に翻弄されながら「世界で最も影響力のある女性」として欧州の舵取り役を務めてきたドイツのアンゲラ・メルケル首相(67歳)のことである。ドイツ史上初の女性リーダーとして15年以上も首相を務めてきた彼女が10月に政界を引退する。

「あなたとこうして会えなくなると思うと寂しい。心の底からそう思う」

メルケル氏のおそらく最後のホワイトハウス訪問となった7月15日の首脳会談後の記者会見で、バイデン大統領は彼女にそう優しく話しかけた。「あなたはずっと大西洋同盟の熱烈な擁護者だ」との賛辞と共に。

単なる社交辞令だと捉える方も多いだろう。しかし、ベテラン政治家同士としてお互いに胸に去来する思いがあったのではないかと私は推測する。

2017年の連邦議会(下院)選挙で4選を果たしたメルケル氏だったが、与党・キリスト教民主同盟(CDU)の得票数が大幅に減少し議席を減らしたことに加え健康上の不安から引退を決意したという。近年になって身体が震える発作におそわれることが幾度もあった。

大量の難民流入など深刻な問題から極右政党の台頭も許してしまったメルケル政権だが、多くのドイツ国民は彼女の揺るぎない中道路線、人道主義、安定感を今も支持している。

ナチス犯罪という忌まわしい過去と国際協調にゆれたドイツは、冷戦後に一国主義から国際協調主義にシフトし、過激なイデオロギーや非人道的行為を厳しく批判してきた。背景にはその政策を支持する国民と祖国に対する誇りと愛がある。それを支えてきたのが非凡なリーダーであるメルケル氏なのだ。

北朝鮮にミサイルを発射された途端に政府もメディアも国民も慌てふためいて国防を語り先制攻撃もやむなしなんて議論が噴出したり、オリンピック開催のためなら国民の命もないがしろにする日本とは正反対だ。臨機応変の政策を打ち出すが思考の軸がぶれないのである。

メルケル氏は1954年、ドイツ北部の経済の中心地ハンブルグで生まれた。父は福音主義教会の牧師で、母はラテン語と英語の教師だった。しかし生後間もなく父が東ドイツに赴任することになり、その後は1990年の東西独統一によって東ドイツが消滅するまで東の抑圧的な社会の市民として生きるという異色の経歴の持ち主となったのだ。

学生時代は、運動神経は別として、成績は飛び抜けて優秀で大学入学試験の成績はオール満点だったという。とくに理数系が得意で物理学者になる道を選んだ。記憶力も抜群だったという。語学も得意で、ロシアのプーチン大統領が首相となったメルケル氏と会談をした際に彼女のロシア語があまりにも流ちょうで舌をまいたという逸話も残っている。

ファッションやヘアスタイルには無頓着で面白みのない優等生の「リケジョ」のようだが、案外おちゃめなところもあった。彼女のものまねの十八番はプーチンだそうだ。しゃべり方だけでなくロシア大統領の左右に身体を揺すって歩く真似も上手いらしい。

ベルリンの壁が崩壊したという世紀の大ニュースを聞いてもサウナでのんびり汗を流していたという話しも有名だ。結婚4年後に離婚した彼女には子供はいないが、国民からは親しみをもって「ムティー」(お母ちゃん)と呼ばれている。

メルケル氏の政治手法は物理学者らしく「熟慮・英断」だ。まず実現可能な成果を想定してから物事を慎重に進め、決断は早い。その思考法でこれまで幾多の試練を乗り越えてきた。さらには、社会主義独裁体制下の監視社会旧東ドイツで育ったことで、交渉相手の本心を見抜く能力も鍛えられた。つまりタフ・ネゴシエーターなのである。

私が以前に東京特派員を務めた米国ニュース週刊誌『タイム』は、2015年のパーソン・オブ・ザ・イヤー(時の人)にメルケル氏を選出している。「道徳が欠乏している世界にあって、確固たる道徳の指導力を発揮した」というのが理由だった。リーダーシップとは突き詰めれば人類への奉仕なのである。

日本の総理は総じて奉仕の精神が足りない。

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ペルーの暗雲

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ナスカの地上絵やインカ帝国時代の空中都市マチュピチュなどロマン溢れる世界遺産で有名な南米ペルー。そのペルーで初の女性リーダー誕生かと注目された大統領選は大番狂わせの結果となった。

政治状況が悪化すれば、世界経済にも影響を与える可能性がある。同国はお隣のチリに次いでハイテク産業では欠くことのできない銅の生産量で世界第2位の鉱物資源国だからだ。

先月行なわれた第1回投票ではどの候補も過半数を獲得できず、今月6日に上位2名で決選投票が行われた。4日後の選挙管理当局の発表によれば、政治経験のない急進左派の小学校教師ペドロ・カスティジョ氏(51)が保守政党の党首であるケイコ・フジモリ氏(46)を得票率で0.3%の僅差で上まわった。彼女の名前で気がつかれた方が多いと思うが、日本でも知られている日系のフジモリ元大統領の娘である。

ところが勝者は未だに発表されていない。3度目の挑戦となったフジモリ氏が待ったをかけたからだ。

「これは国際的な左派グループが民意を曲げようと企てた不正選挙だ!」

そう主張して、確固たる証拠も示さないまま票の再集計を要求したのだ。発表された票差は4万4000票余りあり、国際選挙監視団も投票に不正は確認できなかったというから、結果を覆るのは難しいとみられている。

だがケイコ氏の強気は冷徹な強権政治で知られた父ゆずりだ。

さらに、南米に新たな左派政権の誕生を嫌うアメリカ政府が「不正疑惑の調査は認められるべきだ」と側面からフジモリ氏に助け船を出したため、決着には数週間かかる可能性がある。

それにしてもなぜ劇的な逆転劇が起きたのか。主な理由は格差拡大と政治の混乱だ。

近年、ペルーでは汚職疑惑と政界の権力争いが泥沼化し、2016年の大統領選から大統領が3回も交替するほどの政治的混乱が続いてきた。さらに、新型コロナウィルスによる人口10万人当たりの死者数が500人超と急増して世界最悪の状況だ。作業員が墓地で穴を掘る姿がいまや日常の光景になっているという。

それに伴って経済も急激に悪化。2020年の国内総生産(GDP)はマイナス11.1%と落ち込み、失業率は15%超。貧富の差は拡大して地方の低所得者層の不満は爆発寸前だ。   

両候補の人気もいまひとつだった。

離婚した母の代わりにフジモリ元大統領のファーストレディを務めたケイコ氏の知名度は相変わらず抜群だ。だが父は今や人権侵害や汚職の罪で投獄されており、彼女自身も組織犯罪やマネーロンダリング(資金洗浄)など4つの罪で起訴されている中での選挙だった。好感度はガタ落ちしている。

カスティジョ氏に至っては地方の教員組合出身で、ほんの数ヶ月前までは無名の泡沫候補だった。しかも彼が所属している「自由ペルー」は資源の国有化や憲法改正など過激な主張をする極左政党だ。

つまり、国民にとっては厄介な選択だったのだ。

そんな中、悲惨な現状を招いたのは多国籍企業と結託して利益を貪る悪徳政治家や大企業などの既得権益者だと訴えたポピュリスト(大衆迎合主義者)のカスティジョ氏が地方の低所得者層の共感を得て票を伸ばした。

カスティジョ氏はペルーの主要産業である銅鉱山から得た収益は医療や教育の充実や貧困撲滅に使うと公約している。だが前途は多難だ。議会(1院制、定員139)で彼の「自由ペルー」は弱小勢力であるため法案と通すことが難しい。これまでのペルー政治の歴史を振り返ると、逆に大統領が弾劾されてしまうことも十分ありえる。

アンデス南部地方には、古くから「民の声は、神の声」という諺があるが、著しい経済格差でふたつに分裂した今のペルー社会で先を見通すのは神様でも難しいだろう(終)

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ワクチン政策から見える自民党政権のあや

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ようやく自分の1回目の新型コロナワクチン接種が今月5月27日と決まりホッとしている一方で、朝から晩まで感染者数や死者数を伝えるニュース番組から目が離せない。コロナ大流行は私たちの心まで蝕む病である。

予期せぬ厄の渦中で私たちは数字に翻弄されていると、イタリアの作家パオロ・ジョルダーノが指摘していた。その通りだと思う。

そろそろ視野を広げて現実を直視するときだ。そうすれば答えが見えてくる。

答えはじつにシンプルだ。とにかく早く、出来るだけ多くの人にワクチンを接種すること。そうすればウイルスが生き延びる場所が無くなり、パンデミックは消滅してその後しばらくで日常生活が戻ってくる。

そこで再び注目されているのが「集団免疫(herd immunity)」だ。集団免疫とは一定の数以上の人々がウイルスに感染して免疫を獲得することで感染拡大を封じ込めるという策で、外出規制や飲食店閉鎖などの厳しい規制を行なわない。

ワクチンが開発以前、北欧のスウェーデンが実施して注目を浴びた。ところがコロナによる死亡率が人口100万人あたり約1200人と日本の20倍にも跳ね上がってしまった。「人殺し政策だ」という批判の声が高まったため、政府はあえなく失敗を認めて集団免疫路線を撤回した。

しかし大量のワクチン接種が可能になった昨年末から、集団免疫議論が再び息を吹き返している。これまでのようにただ自然の流れに任せるのではなく、ワクチン接種で積極的にコロナ撲滅を目指せるようになったからだ。

「もし国民の75~85%の集団免疫が達成できれば、米国でもコロナ感染爆発を終わらせることができる」

米国立アレルギー・感染症研究所所長で米政権6代に渡って大統領に助言してきたアンソニー・ファウチ博士もメディアのインタビューでそう語っている。

集団免疫という考えはもともと人間ではなく牛から始まった。1916年、獣医だったアドルフ・エイホーンが、牛の群れの半数以上が最初の感染から回復できれば、群れ全体がその疫病に対する免疫を持つようになることを発見したのである。

もちろんワクチンを打ったからといって100%新型コロナに再感染しないという確証はまだない。やっかいな変異種も登場している。だがコロナ対策の切り札がワクチンだということは世界を見渡せば専門家でなくても一目瞭然だ。

ニューヨーク州ではすでに1680万回のワクチンが投与されており、18歳以上の60%以上が少なくとも1回の接種を受けている。全米では今月1日までに3億回分を超えるワクチンが各州に供給され、2億4000万回余りが接種された。バイデン大統領が就任から100日以内に1億回接種すると宣言した目標の倍以上だ。そのお陰で米国のコロナ感染者は減少傾向にある。

ひるがえって我が祖国日本はどうか。英断できない安倍・菅政権の体たらくでワクチン接種は後手に回って大混乱だ。接種率は世界196カ国中129番。先進国の集まりであるOECD加盟37カ国中でビリだというではないか。それなのに未だに国民の命より五輪開催を優先している。延期または中止した方がいいと考える国民が8割以上(ANN世論調査)いるにも拘わらずである。

海外メディアの反応は厳しい。米ワシントンポスト紙がコラムでIOCのバッハ会長を「ぼったくり男爵」と痛烈に批判し、東京五輪の中止を促した。ニューヨークタイムズ紙も「科学に耳を傾け危険な茶番劇は止める時だ」として大会中止を求めるコラムを掲載している。

フランスのリベラシオンは「東京オリンピックはノックアウトか?」と題された特集を一面に掲載。日本政府のワクチン提供や医療体制の不投入不足を批判している。それに比べて、五輪スポンサーである日本のメディアの論調はいかにも生ぬるい。楽天の三木谷さんがCNNとのインタビューで五輪開催は「自殺行為(a suicide mission)」と述べたのは的を射ている。

「政治は豆腐の箱のごとし、箱が歪めば豆腐も歪む」と江戸時代の農政家二宮尊徳が言ったそうだ。政治という箱が歪めば国民も歪んでしまうという政治家に対する戒めの言葉である。

ところが新型コロナの猛威を侮った安倍・菅政権という箱は情けないほど歪んでしまった。国民の不安と不満も爆発寸前だ。そういえば二宮翁はこうも言っていた。

「誠実にして、はじめて禍を福に変えることができる」

どうみても日本のリーダーは誠実さが足りない。

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