蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」

蟹瀬誠一(かにせ・せいいち)

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。
現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。


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スリランカの悲劇

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「エコノミック・ヒットマン」という言葉をご存じだろうか。

表向きはアメリカの一流コンサルティング会社のエコノミストだが、裏の顔は工作員として途上国を負債の罠にはめて米国の言いなりにする"経済的刺客"のことだ。

手口は極めて巧妙だ。まず、彼らは豊富な自然資源を持つ途上国の指導者に世界銀行の融資を受けて国家の近代化をすれば飛躍的な経済成長と共に巨万の富を手に入れられると言葉巧みにもちかける。

ところが実際には融資された資金は巨大インフラ事業を受注する米企業と現地の強欲なエリート層の懐へ入るだけで、「債務の罠」陥った国は破綻する。

こんな悪行を平気でやるのは覇権国アメリカだけかと思ったら、最近は急速に台頭してきた中国が真似をするようになった。

最近その餌食となったのが、風光明媚さとその島の形から「インド洋の真珠」とばれるスリランカだ。衝撃的な政変が繰り広げられている。

数万人の怒れる群衆が豪華絢爛な大統領公邸を占拠し、逮捕を恐れたゴタバヤ・ラジャバクサ大統領と夫人が慌てふためいて警護1人とともに軍用機で隣国モルジブに逃亡してしまった。

かつてはニューヨークタイムズ紙に「訪れたい国」第1位に選ばれたこともあるスリランカだったが、今は1948年の独立以来最悪の経済危機に見舞われているからだ。物価は高騰する一方で生活必需品は不足し、大規模な停電も頻発して最低限の生活すら維持できない惨状だ。病院では医療品が不足してまともな治療すらできない。あまりの生活苦に危険を覚悟で海峡を隔てたインドまで泳いで渡ろうと試みる人まで出ているという。

さらに、新型コロナの世界的大流行によって主要産業である観光業が壊滅。とうとう債務不履行に陥った。今月5日、ウィクラマシンハ首相は議会で国家破産を宣言した。

驚くべきことには、国家の破綻がラジャパクサ一族という私利私欲に走ったファミリーの悪政によるものだということだ。

多民族国家スリランカでは、独立後26年にも渡って内戦が続き7万人以上の犠牲者がでた。2009年にマヒンダ・ラジャパクサ大統領(逃亡したゴタバヤの兄)が独立派武装組織「タミール・イーラム解放の虎」を制圧し内戦終結を宣言。ようやく平和が訪れた。

しかしそれもつかの間、ラジャパクサ一族が強権的にスリランカの政界、経済界を支配するようになったのである。兄弟で大統領と首相を務め、その権力を笠に政府の重要ポストのほとんどを身内で固めてしまった。国家予算のじつに75%を独占するようになったというからネポティズム(縁故主義)の極めつけだ。

そこに目をつけたのが中国だった。ラジャパクサ一族は中国との関係を深め、インフラ整備に大幅な借り入れを実施した。借り入れの総額は4月時点で1000億ドル以上にも膨らんでいたという。

2017年、スリランカ政府は同国の南部の要衝・ハンバンドタ港の運営権を99年間中国の国営企業にリースすると発表して世界に衝撃が走った。

インフラ建設などを行うために中国からふんだんに融資を受けたものの、施設が十分な利益を生まず、借金だけが膨らみ、返済不能になったため施設や土地を中国に明け渡さざるを得なくなったのである。いわゆる「債務の罠」の典型例だ。その裏には中国版エコノミック・ヒットマンが暗躍したに違いない。

地政学的にみても重大な出来事だった。なぜなら中国のハンバンドタ港支配は米国、インド、そしてスリランカの旧宗主国によるインド洋支配を脅かすからだ。先週凶弾に倒れた安倍晋三元首相が2016年に唱えた「自由で開かれたインド太平洋構想」に米英印3国が強い関心を示したのはそんな危機感があったである。

習近平主席が「一帯一路」(中国を起点としてユーラシア大陸全体や南太平洋を結ぶ経済圏構想)を推し進めれば「債務の罠」に陥る第2、第3のスリランカが現れても不思議はない。ドル基軸体制維持に危機感を抱いたアメリカはこれからさらに反中国色を鮮明にするだろう。

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