蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」

蟹瀬誠一(かにせ・せいいち)

国際ジャーナリスト/明治大学国際日本学部教授
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。現在は『リーダー&イノベーション・賢者の選択』(日経CNBC,サンテレビ、BS-12)、『マネーの羅針盤』(テレビ東京)のメインキャスター。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。


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現代版パンデミック後の世界

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「病に侵された人々は救いを求めて神殿につめかけ、神にすがった。だが病苦に打ち負かされ、もうそのような場所には寄りつかなくなった」

これは古代ギリシャの歴史家トゥキデイデスが『戦史』の中で疫病が蔓延したアテナイ(現在のアテネ)の惨状を描いた一節だ。まさに神も仏もあるものかという酷い状況だったのだろう。

宿敵スパルタの攻撃を受けたアテナイは、当初、優れた政治家ペリクレスの指揮の下で戦いを優位に進めていた。ところが疫病が蔓延したため多くの市民だけでなくペリクレスも罹患して死亡してしまった。その後は、戦争好きで無能な政治家に煽られて政治が混乱し、ギリシャ文明が衰退してしまった。疫病の正体は発疹(はっしん)チフスか天然痘だったようだ。 

愚かな政治家のせいで国家が危うくなるのは、2000年経った今も変わらないが、パンデミックには文明の様相や社会を大きく変える力がある。14世紀のヨーロッパでは、5000万人を死に至らしめた黒死病(ペスト)は、封建制度を崩壊させ、宗教改革、ルネッサンスへと歴史を動かした。イタリア・ルネサンスが命を賛美したのは、恐ろしい疫病死と隣り合わせの時代だったからだ。

第一次世界大戦中にはスペイン風邪(新型インフルエンザ)の大流行によって両軍の若い兵士たちが次々と倒れ、終戦が早まったという歴史もある。疫病は発生からおよそ2年で終息したが、世界人口の3分の1の5億人が感染し4000万人~5000万人が死亡するという大惨事だったのだから世の中が変わらないわけがない。

では、今回の新型コロナ流行は私たちの世界をどう変容させるのだろうか。

まず、人間関係と働き方の再発見がある。新型コロナウイルスは人間関係に強烈なダメージを与えている。私たちの口はマスクに覆われ、友人との会食もままならず、心の中はストレスと孤独感が充満している。感染によって愛する人の死に目にも会えない。そんな環境では、ちょっとしたことで他人に攻撃的になりやすい。経済的ダメージによる社会不安もこれから本格化するだろう。

しかしその一方で、インターネットを利用した在宅勤務が一気に広がり、家族と共に過ごす時間が増え、ネットでの人々の私生活の繋がりが深まり、仕事優先の生き方に疑問を抱く人も増えた。ツイッター社はコロナ危機が終息しても従業員の在宅勤務を無期限で認める方針をすでに明らかにしている。

汎用AIが実用化される2030年頃には国民全員に一定の所得が保障されるベーシックインカム制度が導入され、働かない人がいる社会、つまり脱労働社会が実現しているかもしれない。芸術や哲学、スポーツが盛んだった古代ギリシャを思い浮かべれば分かりやすい。 奴隷のかわりにAIとかロボットが働いてくれるわけだ。そのとき人間はAIに仕事を奪われたと考えるか、労働から解放されたと考えるのだろうか。

ロックダウン(都市封鎖による活動制限)によって人間の行動が厳しく規制されたため世界の空気はクリーンに澄み渡り、あの汚かったガンジス川の流れでさえ清流を思わせるほど透明度が高まった。そんな光景を目の当たりにしてた私たちは地球環境にとって人間が最悪のウイルスであることに気づかされた。

こうした劇的な変化の中で、資本主義の歪みに気づき、愛や友情の大切さを再発見して地球レベルの「共通善」を求めるようになるかもしれない。

また、コロナ禍は政治指導者の決断力、行動力、人間力がいかに私たちの未来に重要かを思い知らせてくれた。その代表格はドイツのメルケル首相だろう。自らのコロナ感染を克服して、科学者としての知見とリーダーとしての使命感に裏付けられたコロナ対策を打ち出した。支持率は2月の53%から79%まで急上昇している。ニュージーランドの若きアーダーン首相もコロナ対策で卓越した政治的判断と豊かな人間性が相まって、国民の支持率は84%に達した。

彼女らに共通していたのは、新型コロナ感染を重大な危機だといち早く判断し、科学と共感力によって効果的なコロナ対策を推進したことだ。対照的だったのは、自分の再選しか考えず失政を繰り返すアメリカのトランプ大統領と周囲の官僚に振り回されて決断力と共感力の欠如を露呈した日本の安倍首相だ。

英経済誌ザ・エコノミストが3月11日のWHOのパンデミック発表からおよそ1ヶ月間で世界の主な10カ国の指導者の支持率がどう変化したかを調査したところ、下落したのはブラジルの独裁者ボルソナーロ大統領と安倍首相のふたりだけだった。情けない。

東日本大震災直後、アメリカの著名な歴史家ジョン・ダワーは次のように指摘していた。

「個人の人生でもそうですが、国や社会の歴史においても、突然の事故や災害で、何がいちばん重要なことなのか気づく瞬間があります。すべてを新しい方法で、創造的な方法で、考え直すことができるスペースが生まれるのです。しかし、もたもたしているとそのスペースは閉じてしまいます」

アフター・コロナの時代は、私たちの社会システムや生き方を根本的に見直すことができる貴重な瞬間なのだ。

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